異世界スーパー幼女村長☆彡
弥生志郎/MF文庫J編集部
第1話 始まりは裏ダンジョンから、ですか?
プロローグ
目が覚めて真っ先に思ったのは、わたし死んじゃったのかな、ってことだった。
というのも、わたしがたった今いるのが、見覚えのない仄暗い洞窟みたいな場所で。
そして目の前には、骸骨の顔をした死神みたいな人がいたからだ。
「起きたようだな。……大丈夫か」
こんなの、きょとん、とするってもんですよ。
貴族のような服を着た死神さんを、たっぷり一〇秒くらい見つめて、
「わっ、びっくりした。死後の世界って本当にあったんだ。……でも、わたしのお迎えが死神さん、かあ。こういうのって、天使のお仕事だと思ってたのにな」
「不思議なくらい落ち着いているな。君のようないたいけな娘であれば、我を見れば怯えるものなのだが。……君、名前は言えるか?」
「えっと、七瀬有架、です。小学一年生になりました」
「……ショウガクイチネンセイ?」
「そっか、これじゃ伝わらないのかな? じゃあ……七才になりました」
「七つか、それは随分と幼いな。……ではアリカ、君が何故ここにいるか理解出来るか?」
何故、って言われても気が付けばここにいたわけで。最後に覚えてるのは……そうだ。
わたし、小学一年生になって初めて家出をしたんだ。
昔からお父さんは会話してくれなくて、料理も掃除も全部自分でして、風邪をひいても病院に連れて行ってくれなくて。それが嫌になったから学校の帰りにそのまま逃げたんだ。
先生は、ネグレクト、とか言ってたっけ。よく分かんないけど。
それで、昨夜はダンボールに包まって公園で寝てたんだけど……。
「その様子では、自分の身に何が起こったのか分かっていないようだな。ではアリカ、君はここを死後の世界と言ったが、根本的に勘違いをしている。……君は死亡したのではなく、転移されたのだ。君からすれば異世界である、この世界に」
「……異世界?」
「君が寝ている間に調べさせてもらったが、何者かに転移させられた形跡がある。こうして我と会話が出来るのも、その何者かが言語を理解出来るよう君に魔法を施したからだ」
ふーん。まあ、死神さんが本当のことを言ってるかなんて分かんないけど。
この人が、わたしを攫うために変装したハイレベルなヘンタイさんっていう可能性も……いや、やっぱりないかな。骨の質感とかリアル過ぎて、仮装じゃなさそうだし。
「しかし君も災難だったな。まだ子どもだというのに、このような場所に転移されるとは」
「……? そういえばさっき、何者かに転移させられたって言ったけど、わたしをここに連れて来たの死神さんじゃないの?」
「冗談ではない。君のような子どもを、こんな迷宮に転移させるはずがないだろう」
迷宮? わたしはきょとんと首を傾げ――そして、死神さんははっきりと告げた。
「ここは、史上最悪の難易度を誇る迷宮――裏ダンジョン、と呼ばれる場所なのだ」
……あれ?
なんでだろ。それって、何処かで聞いたことがあるような……。
「本来であれば、ここは足を踏み入れることすら困難な前人未到の迷宮なのだ。数百年という歴史の中で一握りの人間が訪れることもあったが、誰一人として帰還を果たしたものはおらぬ――それほどこの迷宮は呪いで穢れ、凶暴な魔物が巣食っているのだ」
「……へ、へえ。そうなんだ」
裏ダンジョンって名前に嫌な予感はしてたけど、間違いないみたい。
この迷宮、クラスの男子が話してたゲームの内容とそっくりだ。
確か、ラスボスを倒したら、とか。レベル上げとか言ってた気がするけど……うーん、あんまり覚えてないなあ。
「でも、ここがその裏ダンジョンなら、わたしなんてすぐ死んじゃうんじゃない?」
「……いや、そうとも限らないらしい。どうやら、君の身体には女神の加護が付与されているようだ。その効果までは分からないがな」
女神? へえ、この世界ってそんなのまでいるんだ。
「理由は不明だが、どうやらその女神が君をこの迷宮に転移させたようだ。まったく、加護を与えたとはいえ、無力な少女を転移させるとは何を考えているんだ」
「……もしかしてその女神様って、わたしの願いを叶えてくれたのかな。お父さんから逃げ出して、ずっと遠い場所に行きたいって思ってたから」
「父親から逃げ出した? 君のような小さい女の子が、か?」
「うん。それくらい、お父さんってわたしに興味がなかったから」
……死神さん、どうしたんだろ。何か、びっくりしたみたいにわたしを見つめてる。
でも、これからどうしようかな。死神さんの言う通りここが危険な場所ならわたしなんてすぐ死んじゃうだろうし、そもそも行く当てなんて何処にもない。
「……アリカ。君に相談したいことがあるのだが、聞いてくれるだろうか?」
死神さんは、ぷい、と恥ずかしそうに目を背けて、
「その……我と、共に暮らすつもりはないか?」
「……えっ?」
「ほ、ほら、君一人ではこの迷宮で生き延びることは不可能だろう? それに、君の父親は酷い男だったかも知れないが、我ならば精一杯大切にしよう。い、いや、魔物の我がこんなこと言うのはおかしいかもしれないが、ほうっておけないというか……!」
ちょっと待って。だって、一緒に暮らすってことは……。
「ねえ、死神さん。それって……わたしの家族になってくれる、ってこと?」
「むっ……まあ、そうなるのだろうな」
「……そ、そっか。家族、か」
自分でも不思議だった。
ここは史上最悪の裏ダンのはずなのに――胸のどきどきが、止まらなかった。
「うん、そうだね。とりあえずお世話になろうかな。……死神さん、名前は?」
死神さんは、おずおずと手を差し出して、
「我はハデス。この迷宮を統べる冥王・ハデスである。……よろしく、でいいのだろうか」
わたしはこくりと頷くと、死神さんの――ううん。
お父さんの手を、握った。
――それから、一〇年という月日が経って。
一七才になったわたしは裏ダンジョンから旅立ち、表世界へと踏み出すことになる。
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