第13話『メタモルフォーゼ・13』
『メタモルフォーゼ・13』
信じられない話だけど、中央大会でも最優秀になった!
本選は予選の一週間後、稽古は勘を忘れない程度に流すだけにしていた。それでも、クラスのみんなや、友だちは気を遣ってくれて、稽古に集中できるようにしてくれた。
祝勝会は拡大した……って、ややオヤジギャグ。だってシュクショウがカクダイ。分かんない人はいいです(笑)
校長先生が感激して会議室を貸してくださり、紅白の幕に『祝県中央大会優勝!』の横断幕。
学食のオッチャンも奮発してビュッフェ形式で、見た目も豪華なお料理がずらり。よく見ると、お昼のランチの揚げ物や唐揚げが主体。業務用の冷凍物だということは食堂裏の空き箱で、生徒には常識。
でも、こうやって大皿にデコレーションされて並んじゃうと雰囲気~!
「本校は、開校以来、県レベルでの優勝がありませんでした。それが、このように演劇部によってもたらされたのは、まことに学校の栄誉であり、他の生徒に及ぼす好影響大なるものが……」
校長先生の長ったらしい挨拶の最中に、ひそひそ話が聞こえてきた。
「あの犯人、みんな家裁送りだって……」
「知ってる。S高のAなんか、こないだのハーパンの件もあるから、少年院確定だってさ」
「どうなるんだろうね、うちの中本なんか?」
中本は、ちょっとカワイソウな気もした。もとはあたしのことに興味を持ってスマホに撮った。好意をもって見ているのは動画を見ても分かった。道具を壊したのもAに言われて断れなかったんだろう……って、なんで同情してんだろ。あの時は死んでも許さない気持ちだったのに。
これが女心とナントカなんだろうか。あたしも県でトップになって余裕なのかな……そこで、会議室の電話が鳴り、校長先生のスピーチも、ひそひそ話も止まってしまった。
「マスコミだったら、ボクが出るから」
電話に駆け寄った秋元先生の背中に、校長先生が言った。
「はい、会議室です。外線……はい、校長先生に替わります」
会議室に喜びの緊張が走る。
「はい、校長ですが……」
校長先生がよそ行きの声を出した。
「……なんだ、おまえか。今夜は演劇部の祝勝会なんだ、晩飯はいらん。何年オレのカミさんしてんだ!」
そう言って、校長先生は電話を切ってしまった。
「校長先生、県レベルじゃ取材は無いと思います」
「だって、野球なら、地方版のトップに出るよ!」
「は……演劇部ってのは、なんというか、そういうもんなんです」
祝勝会が、お通夜のようになってしまった。なんとかしなくっちゃ。
「大丈夫です、校長先生、みんなも。全国大会で最優秀獲ったら、新聞もテレビも来ます。NHKだってBSだけど全国ネットで中継してくれます!」
「そうだ、そうよ。美優なら獲れるわよ。みんな、それまでに女を磨いておきましょ!」
「男もな!」
ミキが景気をつけてくれて、それを受けて盛り上げたのは……学校一イケメンの倉持先輩だった。
「あの……これ、予選と中央大会のDVD。おれ、放送関係志望だから、そこそこ上手く撮れてると思う。みんなの前じゃ渡しづらくってさ。関東大会の、いや全国大会の参考にしてくれよ」
倉持先輩が、下足室を出て一人になったところで、声をかけてきた。
「あ、あ……どうもありがとうございました!」
「いいって、いいって、美優……渡辺、才能あると思うよ。じゃあ」
あたしは、倉持先輩が、校門のところで振り返るような気がして、そのまま見ていた。
振り返った先輩。あたしはとびきりの笑顔で手を振った。
好き……というんじゃなくて、あたしの中の女子が、そうしろと言っていた。
「恋愛成就もやっとるからね、うちの神社は……」
突っ立っていたあたしを追い越しながら、受売神社の神主さんが呟いた。そのあとを普段着の巫女さんがウィンクしていった。
あたしは真っ赤になった。でも、好きとか、そういう気持ちではなかった。
そういう反応をする自分にドギマギしている別の自分が居るんだ……。
つづく
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