第12話 ・オトンボのミソッカス
メタモルフォーゼ・12・オトンボのミソッカス
「最優秀賞 受売(うずめ)高校 大橋むつお作『ダウンロ-ド』!」
嬉しいショックのあまり息が止まりそうだった。なぜか下半身がジーンと痺れたような感覚。
え、なに、この感覚? こんなの初めてだよ……!?
あ、おしっこをチビルってのは、こんなのか……括約筋にグッと力を入れて我慢した。
賞状をもらって壇上で振り返ると、秋元先生はじめ、助けてくれた人、心配してくれた人たちの拍手する姿が目に入って目頭が熱くなった。
それから閉会式の間、あたしは嬉しい悲鳴をあげながらもみくちゃにされていた。
「あ、剣持さんが来てる……」
ホマの声で、みんなが一斉にそっちを見た。
あたしでも知っている三年生で学年一のいい男と評判の倉持健介……さんが来ていた。ユミがスマホを出してシャメろうとした。
「チッ……!」
シャメる前に、他校の女子生徒が三人来て取り巻き、その子達がチヤホヤしだした。倉持さんは慣れた笑顔であしらいながら、出口に向かった。女の子達が後に続く。
「もてる人だから、オッカケの子たちの義理で来たんだろうね」
クラス一番モテカワのミキでさえ、倉持さんは別格のようだった……。
家に帰ると、みんな、それぞれにくつろいでいた。
お母さんはルミネエといっしょにミカンの皮を剥きながら、テレビドラマを見ている。
ミレネエは、お風呂から上がったとこらしく、パジャマ姿にタオルで頭くるんでソファー。やっぱ、テレビが気になるようで、頭を左右に振りながら「見れねえ」とシャレのようなグチを言ってる。親と姉が邪魔でテレビが見づらそう。
レミネエは、我関せずと自分の部屋。キーボ-ド叩く音がしている。
「ただいまあ。コンクールで最優秀とった……よ」
「やっぱ、エグザイルはいいわ。犬の娘が結婚するわけだ」
「進一兄ちゃんも、ここまで努力したら、トバされずにすんだのかもね……あ、美優帰ってたんだ。ただ今ぐらい言いなよ」
「言ったよ」
女子になったころは珍しくて、うるさいほどに面倒みてくれたけど、もう慣れたというか飽きたというか、進二だったころと同じく空気みたいになってしまった。ま、いいけど。
「先にお風呂入っていい?」
「うん」が二つと「どうぞ」が一個聞こえてきた。
「じゃ、お先……」
着替え持って、脱衣場でほとんど裸になったときにミレネエが、入浴剤の匂いをさせ、なにか喚きながら、あたしをリビングに引き戻した。
「美優の学校大変だったんだね、侵入者がいて演劇部の道具壊されたって、で、犯人掴まったそうだよ!」
――今朝、受売高校に侵入し、演劇部の道具などを壊した容疑で、S高校の少年AとB、それに同校の少年が、侵入と器物破損の容疑で検挙されました――
「大変だったんだね、美優……美優、なにおパンツ一丁で。あんた女の子なんだから……」
「ちょ、ちょっと!」
テレビが続きを言っていた。
――なお、受売高校演劇部は、この御難にもかかわらず、地区大会で見事最優秀を獲得いたしました――
「美優、やったじゃん! なんで言わないのさ!?」
「言ったよ、ただ今といっしょに……あの、寒いんで、お風呂入っていい?」
「さっさと入っといで!」
と、引っぱり出してきたミレネエが……言うか?
「上がったら、ささやかにお祝いしよう!」
「ほんと!?」
あたしは、急いでお風呂に入った。しかし女子になってから、お風呂の時間が長くなった。
お風呂から上がると、すでに祝勝会は始まっていた。改めて乾杯はしてくれたけど、話題は、いつの間にか、職場、ご近所のうわさ話になった。
やっぱ、あたしは男でいても女になっても、オトンボのミソッカスに変わりはないようだった。
つづく
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