ループ式どっちが寿命長いかゲーム

ちびまるフォイ

変化のある毎日か、退屈に過ぎる毎日か

「おおーーい! ここはどこなんだ! ここから出してくれ!!」


気がつくと周囲は壁に囲まれた密室にとらわれていた。

壁の一部がせり上がると、ガラスの向こうで人が見えた。


『これから、ここでは寿命ゲームが行われます。

 ここで過ごした1日がずっと繰り返されて、

 先に寿命が着きた人間は脱落し、最後に残った人間が脱出できます』


「説明している内容が説明になってねぇ!」


また別の壁がせり上がると、

自分と同じように「わけがわからない」の顔をした人がいた。


『では1回戦』


壁だと思っていた場所が一瞬で豪雪の雪山に切り替わった。

あまりの寒さに意識が遠くなる。


「さささ、寒い!! ここで1日過ごせって……バカじゃねぇのか!?」


ガラスの向こうにいる男はこちらの声が聞こえないのか反応もしない。

同じ環境にいる男はその場にかまくらを作り始めた。


猛烈な吹雪も手伝ってかまくらができた。

俺もそれにあやかろうとしたが、思い切り蹴飛ばされてしまった。


「入ってくんじゃねぇ! 俺の場所だ!!」


かまくら作る体力はなく、風をふせいで雪にあぐらをかく男を尻目に

俺は泣く泣く足元にクレバスのような堀を作って底に立って入ることにした。

その時点でもうすぐ1日が過ぎようとしているほど、時間が立っていた。


「ううぅ……辛いよぉ……」


泣きそうになりながら日が過ぎるのを待った。


 ・

 ・

 ・


ビーーッ。


ブザーが鳴った音で目が覚めた。


「あれ……? 雪山じゃ……ない?」


立ちながら寝ていたはずが、目を覚ますと元の部屋に戻っていた。

隣には顔が真っ青になっているかまくら男の死体が転がっている。


「うわわ!? なんだこれ!? お、俺が殺したのか!?」


『いいえ、ちがいます。あなたと彼が過ごした1日を

 同じように6回繰り返したところ、彼が先に死んでしまったのであなたの勝利です』


「1日を6回って……それじゃ6日も経っていたのか!?」


『安心してください。ゲーム終了後に時間は巻き戻されています。

 あなたの寿命はゲーム開始時まで戻っています』


どうして自分のほうが長く命を繋ぎ止められたのか。

思い当たるのはかまくらと、ざんごうのようなものを掘った部分の差だった。


相手はかまくらの上に座っていた。

俺は雪の壁の間にずっと立っていた。


接地面が少ないほど体温が奪われるのを防ぐことができるのだろう。

たったそれだけでも命運をわけてしまうなんて。


『おめでとうございます。次のステージに進めます』


「進みたくないよ!」


ふたたび壁がせりあがると、また別の男が横に居た。

同じく「雪山」を攻略したのか、その顔には決意めいたものすら感じる。


『2回戦 開始』


さっきまで何もなかった部屋が一転して灼熱の砂漠へと変化した。

体中の水分が蒸発して汗すら出なくなってしまう。


「暑い……こんなことなら、さっきに雪のひとつでも持ってくればよかった……」


相手の男はすぐに服を脱いで影を作ると下手に動かすに体力を温存する。

この勝負、いかに1日で対直温存できたかが寿命延長につながる。


しかもちょうどいいくぼみを見つけたのか、そこに収まって直射日光を避けている。

完全に出遅れてしまった。


「くそ……俺もどこかいい避難場所を探さないと……」


けれど、当たりの砂漠をいくら見回しても遮蔽物はない。

必死に探しているうちに1日が過ぎてしまった。


 ・

 ・

 ・


ビーーッ。


ふたたびブザーが鳴らされた。


『おめでとうございます。あなたの勝利ですよ』


目が覚めると、部屋には対戦相手の死体が転がっていた。


「え……? 俺が……勝ったのか!?」


『砂漠の夜は冷えます。服を脱いだことで寿命が減ったのです。

 結果的に、あなたの寿命のほうが長く生き残りました』


「ラッキーってことか……相手の死因は?」


『溺死です』

「砂漠で!?」


『砂漠に降る雨は、乾燥した土に吸収されずに上滑りします。

 あなたの対戦相手が隠れたくぼみは、もともと川の跡だったので水が集まりやすいのです』


同じ1日をループさせて先に死んだほうが負け。

その中でもトラブルに巻き込まれれば、寿命以外の要素で死んでしまう。


『それでは次の戦いです。これが最終戦です』


「もういいよ!」


今度はどんな極限状況なのだろうか。

覚悟を決めてそっと目を開いた。


「あれ……? 部屋……?」


熱くもなく寒くもなく、呼吸も苦しくない。

ごく普通のひと部屋に俺は立っていた。


『向こう側にあなたの対戦相手がいます。

 この中で最後まで生き残った人が勝利となります』


「なるほど……今度は純粋な寿命勝負ってわけか」


おそらく隣の部屋に誰かがいるのだろう。

ガラスの向こうでは俺を観察している男が立っている。


部屋には食べ物も飲み物もしっかり完備されている。


けれど、これのチョイスが一番大事だ。


「最大限に寿命を延ばせる食べ物と適量の飲物を選ばなくっちゃ。

 今日の1日を一番寿命が伸びる日にしないと勝てないぞ」


1日が死ぬまで繰り返されてその寿命を競う以上、今日は手抜きできない。

美味しそうな肉などをぐっとこらえて健康を意識したメニューを食べる。


飲み物も健康的で、無駄のない量を意識しながら取る。

寝る前にはトイレに行って、極力ストレスのかからない生活を意識する。


遅くまで起きているのは寿命減少になりかねないので、

部屋に備え付けてあった布団に早い時間でももぐりこんだ。


「ふふふ。ここまで完璧な延命日常だったな。

 これなら相手がどんなやつであろうとも、寿命で負けるはずがない」


安心して、ゆっくりとやってきた睡魔にまどろんでいたときだった。



――コンコン。



「ん?」


隣の対戦相手が壁を叩く音がした。

一応部屋を見回してみるが当然ドアなんてない。


「あの、なんですか?」


――コンコン


「それやめてください。眠れないんです」


静かになった。


「ふぅ、収まったか。ようし、今度こそ……」


――コンコン


「んああああ!!! だから! うるせぇって!!」


――コンコン


いくらどなってもノックの音が途切れることはなかった。

ノックの音が届くくらいなのだからこっちの声だって聞こえているはず。


そのうえで続けているということは確信犯だった。


「こいつ……まさか、俺にストレスを!?」


こんなにイラつく日を延々と繰り返されたらどうなってしまうのか。

確実に心がストレスで持たなくなる。寿命だって縮むだろう。


「この野郎……正攻法で勝てないとわかって、姑息な手を!!」


こうなったら俺も同じ方法で対抗するしかない。

単純な音よりも相手にストレスを与える方法はなにかないか。


思いついた俺は心を落ち着けて、隣に聞こえるよう壁にそって話し始めた。


「あなたは、この世界の神についてご存知ですか?」


「私は心の中の平和を願い、世界を救うためにここにいる使者です」


「この聖書に書かれているように、あなたも救われるべき人なのです。

 心のイデアを開放するため、私がここであなたに聖書の尊さを教示いたしますね」


「この部屋にいても世界に訪れるカタストロフィからは逃げられません。

 聖書を信じるのです。神を信じ心を開放しスピリチュアル界へのはしごをかけましょう」


相手がどんなに規則正しく騒音を出しても、

こっちはこっちでストレスを与え続けてやる。


どっちのストレスが勝るか寿命勝負だ!!



 ・

 ・

 ・


100年後、部屋からはたった1人の男が解放された。



「ゲームに参加した1日を繰り返すのと、

 参加している人を見るだけの退屈な1日を繰り返すのとでは、

 やっぱり退屈な1日のほうが寿命は伸びるんだな」


ガラス越しに立っていた男だけが部屋を脱出し去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ループ式どっちが寿命長いかゲーム ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ