私と雨乞いの村。

桧馨蕗

私と雨乞いの村。

これは、昔昔のとある村で私が実際に体験した話である。



当時の私は人間界で修行をしていたのだ。その中で私はある村へ訪れた。その村はとても普通の村であった。私はその村に約3ヶ月滞在していた。村の者は優しく、朗らかな者が多かった。


しかし、ある事件が起きたのだ。井戸が枯れてしまったのだ。村の者達はとても困った。この村で唯一と言っていい綺麗な水が得られる井戸が枯れてしまったのだから。私が手を出して井戸の水を蘇らせることは出来る。しかし、この事は我らが唯一神、アーウフン様が与えた試練なのだ。私は手を出すことが出来ない。


村の者は、この村に古くから住んでいる1人の老人を訪ねた。その老人は齢100を超える物知りな老人であった。村の者は老人に相談した。これからどうすれば良いのかと。老人はある昔話をしてくれた。


その昔、今回のように井戸が枯れてしまったことがあった。その時この村の者は雨乞いをしたのだ。その方法はとても独特でとても困難なものである。


その方法を聞いた者はとても悩んだ。しかし、やるしかないのだ。雨季がくるまであと、半年もある。その間何もしなければ待つのは死のみである。その村の者は他の者にも雨乞いの方法を伝えた。それを聞いた村人は驚いた。そう何しろ雨乞いの方法はとても独特で困難なのだ。しかし、やるしかないのだと腹を括った。


次の日から村の者は雨乞いのための準備を始めた。女子供は雨乞いに用いる衣装をつくり、男はアーウフン神に捧げる供物を用意した。その供物というのはアーウフン神の大好物であると言われている物色々だ。ポークピピックの肉、ラビッビの肉、ワイルドピックピックの肉、バードットの肉、また滋養強壮があると言われているススネークの酒漬けなどが用意された。


そして男達は雨乞いの時にする踊りを練習した。まあ、これが大変だったのだ。疲れても腕を下げてもならない。足は真上に上げる。声を常に一定の大きさで保つ。男達は成功するまで何度も練習した。そしてついに完璧に出来るようになったのだ!男達は歓喜した。何せ全員が完璧に出来るまでに3ヶ月もかかったのだ。ここに来るまで色んなことがあった。喧嘩もした。泣いたりもした。その都度新たな男の友情が生まれた。


今の男達は今までにないくらい団結力に溢れている。決戦(儀式)の日は明日。それまでに体力を温存し、その日はいっぱい食べよく寝た。


朝。ついに今日は儀式の日。これまで出来ることのことはした。これからが本番だ。村人達は私を井戸のところへ連れていき座らせた。なんでもこの儀式は、この村の者以外の協力が1人必要なのだそうだ。それを聞いた私は喜んで協力した。


さあ、時は来た。儀式の時間だ!それはカラッと晴れている。陽射しがキツイ日だ。


準備を完了させた男達が私と井戸の周りに供物を置き、その周りを囲んだ。そして、太陽が雲に隠れた時、儀式は始まった。


男達は練習してきた、踊りを輪になって踊り始めた。私は思わず顔が引き攣った。

いや、逆に引き攣らない方が無理だというものだろう。何故なら男達は、鍛えられた逞しい体を生まれたままの状態を晒している。いや、これには少し語弊がある。一応下半身を隠す藁みたいなものがある。女子供が一生懸命編んでいたものである。


え、なにこれ。隠れているようで隠れてないんだけど。


男達は私を囲んで踊っている。下半身が隠れているようで隠れていない状態で、腕を直角に曲げ掌を上に向け上下に動かし、膝も直角に曲げ上げ下げしながら私と井戸と供物の周りを回る。そしてしばらくしたら村長声をみんなに合図をし、掛け声が付いた。


ウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウッ.....................。


モモンキーのようなかけ声が掛かったことで引き攣っていた顔が真顔になってしまった。これが雨が降るまで続けるのだ。私の表情筋が仕事を放棄した。目を瞑りたい。しかし、私も雨が降るまでずっと目を開け見届けなければならないのだ。幸い、私は人間ではないの何も食わずに何日も起きていることは辛くない。が、この状況は体は辛くなくとも精神がキツイ。何せ私は村の男達の裸体を雨が降るまで見届けなければならないのだから。


あ、村長と齢100の老人の衣装がとれ、シワシワな大事なところが晒された。他の者も衣装が取れそうになっている。そりゃそうだ。もう、雨乞いの儀式を始めて太陽が沈もうとしているのだから。


そして太陽が完全に沈み、女達がウホッウホッと声を上げながら踊っている男達の周りに松明を持ってきた時、ついに最後の1人の男の衣装がとれた。


ウホッウホッウホッウホッ..................。


男達は最初と変わらぬ状態で踊っている。


ウホッウホッウホッウホッ............。


私の脳が考えることを放棄した。


ウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッ....................。


ウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッウホッ............。



いくら日が過ぎただろうか。少なくと7日は過ぎていたはずだ。供物が完全に腐りきっていだからそのくらいのはずだ。正直この時の記憶はあまり覚えていないが、恐らく7日を過ぎた頃だ。


ポツッ......ポツポツッ......。


天から雫が落ちてきた。雫は、大きくなり徐々に数が多くなってきた。


村の者は歓喜した。雨が降り、井戸に水がたまったのだ!!実に3ヶ月ぶりなのだ。

私も歓喜した。この精神的苦痛から解放されるのだ!!


村人と私はアーウフン神に感謝の祈りを捧げた。


次の日、私はこと村を後にした。村人達はここに住めば良いと言ってくれたが、私は修行の身であるので世界を廻らなくてはならないのだ。何より、私が気まずいだ。何せ1週間も村の男達の裸を見ていたのだ。服を来ている状態でも男達の裸体が脳裏にチラつくようになってしまったのだ。


うん。気まずいし脳裏にチラつくせいで精神的にキツイ。何故か申し訳なくなってきた。


この村で精神的なダメージを負った私はあてもなく次の場所へ目指し村をあとにした。次の場所は精神を癒せる場所がいいなと淡い期待を抱いて。



~完~



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私と雨乞いの村。 桧馨蕗 @hinokinokaori

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