ワールドデストラクション

ザード@

宇宙へ

第1話 少女との邂逅

 空間に投影されたメニュー画面からアイテムのアイコンを選択し、展開したウィンドウからペットボトル飲料を選ぶ。すると、格納されていた量子情報が領域に展開し朝永の手に飲み物が具現化する。朝永はキャップを乱暴に開けるとそれをごくごくと飲み干した。

「甘すぎるが疲れた身体にはこれがちょうどいいな」言いながらメニュー画面からステータスウィンドウを表示する。筋力や知力といった自身の基礎ステータスを眺めなんだかなあという気分になった後、スキルツリーを表示する。簿記や情報処理、数学能力などの自身の所持資格の一覧が表示される。画面一番下のブランクを選択すると空間上にダイアログが現れ『新たなスキルを取得しますか?』とメッセージが現れる。いつ見ても刺激的なメッセージだ。朝永の趣味は自身のスキルツリーを育てることだった。

「ああ、早速頼む」

『現在のスキル状況から受験可能な資格は以下のとおりです。1.会計士認定試験 2.データベーステクニカルマスター、3.情報セキュリティアナリスト、4.数学能力試験1級』

「数学能力試験1級っと」

 画面に『試験の概要を表示しますか?』のメッセージが現れる。朝永はYESを選択する。

 表示された文字列情報を下までスクロールすると合格率の情報が目に入る。

「なるほど、合格率3%か……!」

 受験開始を選ぶと眼の前に数学の問題が展開された。どれも大学レベルでありこれを時間内に解くのは困難そうだ。


 試験を終え、合否結果も表示させた朝永は不満げだった。アイテム、詳細の順でアイコンを選択しチョコレートを取り出す。空間に量子情報が展開する映像はいつ見ても綺麗だ。22世紀ごろはレプリケーターという装置のある場所でしか出来なかった量子情報の展開も23世紀現在では空間さえあれば任意の場所で行えた。チョコレートを噛み砕くと朝永は言う。

「クソッ! 6割で合格の試験で6割しか取れないだと!?」

 アラートが表示され、チャット欄にテキストメッセージが現れる。

『うるさい』

 送信先を目視するとどうも向いを歩いている少女らしい。

『すまんね。お詫びにこれを』

 金銭的価値も伴う、量子情報を添付して少女にチャットを送り返す。量子情報には価値があった。それは物理法則からの制約でコピーが行えず、従って21世紀の終わり頃まで使われていた現金や電子マネーと言った概念は量子情報の実用化に伴い駆逐されていた。

『そういう話じゃない』

 送った量子情報は送り返されてきた。

『おいおい、どういつもりだ? これ俺が送ったのとラベルが違うぞ』

 何かの意図がある? 朝永はそう思いその量子情報をサンドボックス内で測定する。するとメッセージがサンドボックス内のエミュレータ上に表示された。


『東京スカイツリーで待ってる』

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