時の旅人~CROWN~

櫻井 理人

第一編 旅立ち

序章

プロローグ

 世界には白い龍が生んだ二つの玉が存在するという言い伝えがある。

 一つは雲のように透き通った白き玉、もう一つは鮮やかな瑠璃色の玉。


 かぜくにきりくに太陽たいようくにくにの四大国の王は、臣下に二つの玉を探させていたが、見つかる気配は一向になく、誰もがただの伝説、迷信だろうと諦めかけていた。

 一七六三年、風の国の宮廷にもりくにの大使が親書を携えてやって来た時のことだった。革命派の動きに警戒し、宮廷に籠ることの多かった国王は、大使の紹介である男を招待することにした。

 黒いコートに身を包んだその男は、国王の前でいとも簡単にダイヤモンドを作ってみせた。また、彼は「若返りの水」と称した液体を瓶に入れて持ち歩き、宮廷の貴族たちからもてはやされるようになった。国王とその妻に気に入られた彼は、伯爵という爵位を与えられ、「国王の間」にも度々姿を現していたが、誰も不審には思わなかった。

 男が宮廷に出入りをするようになって幾ばくか経った頃、彼は国王に直径八インチほどの虹色に輝く球形の石を見せた。彼は、これを使えばあらゆる願いを叶えることが出来るとし、自らが作った物と称した。

 国王に、「二つの玉に次ぐ第三の玉」と言わしめた虹色の玉の噂は、たちまち各国へ広がった。大国に限らず、小国の王や貴族、大商人までもが喉から手が出るほどに玉を欲した。

 そこで、各国の王は風の国から玉を奪おうと戦争を仕掛けたが、度重なる戦争で国々は荒れ、各地で死者や孤児が相次いだ。戦争で多くの血を流させたこの玉のことを人々は「ブラッディ・ストーン」と呼ぶようになった。

 不吉を象徴する物へと変貌を遂げた玉は、二十数年の時を経て男の元へ帰ったが、ある満月の夜、肥大化した後に砕け、世界各国へと飛び散ってしまったという。

(『風の国史記――伝承』より)

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