第8話 ニャザール村の戦士長ナール

 ステータスの下にこう書いてあったのだ。




 スキル:【リミット1】




 「リミット? これが原因か?」




 詳しく見れないかタッチしてみた。


 すると......、




 【リミット1】:各ステータスを500分の1にする。解除時以外常時発動。(「解除」コールで解除・「リミット」コールで発動)




 「なるほど。このスキルが発動していたせいでステータス値が全部500になっていたのか。」




 でも、このスキルは意外と便利だ。というか普通にありがたい。


 あのまま物理攻撃力が5万もあったら盗賊を倒すどころか自然や街を破壊しかねない。


 500もあれば盗賊を倒すには十分だろう。それにもしもの場合には解除すればいい。


 なんて都合のいいスキルだ。


 ステータス値が減っていることに気づいた時は驚いたが、原因がわかって安心した。




 「お待たせしました!」




 ちょうどニャターシャが村の人たちを連れて帰ってきた。




 「6人連れて来ました!」




 ニャターシャの後ろには6人のネコ耳たちが並んでいた。




 「アヤトのことは私の方から軽く紹介しておきました!」




 「そうか。 まあ一応俺からも。」




 敬語で謙虚に話そうとも思ったが、ここは異世界だ。


 強いものは堂々と。そんな世界。


 俺は堂々と話すことに決めた。  




 「村人の皆さんはじめまして。 俺は冒険者のアヤトだ。 森でベアロンを倒してその肉を手に入れたからよかったらみんなで食べよう。」




 「ありがとうございます!」




 ニャターシャも含め7人のネコ耳たちはとても嬉しそうだった。




 それから、ニャターシャが連れて来た村の人たちが用意して来てくれた薪に、何やら原始的な方法で火を起こし、串にメインの肉を刺して焼き始めた。


 肉は1つあたり100グラムくらいだったので8人分で8個を焼くことにした。




 焼きあがるのを待つ間、ニャターシャが連れて来た村人を紹介をしてくれた。




 「この子達は3人とも13才で左から、レーニャ、ロニーニャ、ニャリーヌです!」




 「はじめまして!」




 3人とも茶髪ショートで目もぱっちりしていて13才とは思えないくらいの美少女だった。


 俺の頭の中ではもう、ネコ耳族=美少女という考えが固まりつつある。


 それにしてもこの民族は名前に「ニャ」が入るのはお決まりのようだ。




 「美味しそうな匂い!」




 「ほんと! こんなに美味しいなんて!」




 「あんたまだ食べてないでしょ。」




 少女3人は特に俺に構うことなく肉の匂いに夢中になっていた。


 肉>俺 ということか。 いや、当たり前のこととはいえそんなにあからさまに態度に出されるとわりとショックだった。




 「そしてこちらが村の戦士長のナールさんです!」




 どうやら男の名前に「ニャ」入らないようだ。




 「やあ。 私はニャザール村の戦士長ナールだ。 そしてこっちが部下のライルとベンだ。」




 3人ともガッチリした体格で随分鍛えているようだった。


 中でも戦士長のナールは服の上からでも胸筋の厚みがわかるくらいマッチョで背も高くとても強そうだ。


 だがそれだけに、頭から生えている短いネコ耳の違和感がすごかった。


 そんな戦士長は僕に尋ねた。




 「君は一人でベアロンを倒したのか?」




 「ええ、まあ。」




 「一体何者なんだ君は。」




 「え、そんなに強い魔物なんですか?」




 戦士長いわく、ベアロンは村の戦士10人で挑んでも無傷では倒せないらしい。




 「それほど動きが俊敏でパワーのある魔物だということだ。 それを君はキック1撃で倒したそうじゃないか。 それはもはや人間ではないぞ。」




 「ハハハ...。」




 俺は愛想笑いをして無理やり話を流そうとした。 


 彼も気をつかったのか、それ以上追求してくることはなかった。


 そして彼は話を変え、半年前の盗賊に襲われた日の話を始めた。




 「あの日俺は手練れの戦士10人ほどを連れて南の村に狩に出ていた。 だが特に大きな収穫は無く村に帰ると、盗賊たちが村を襲撃している真っ最中だった。 奴らは武器も持っていない村の男たちを剣で殺し、女を紐で縛り馬車の荷台に次々と乗せていた。 俺たちが狩に行っている間、村に残っていた20人ほどの戦士は必死に抵抗していたが相手は倍の40人ほどいたためかなり押されていた。 俺たちが応戦してなんとか盗賊を追い払うことができたが、犠牲は大きかった。たくさんの村の男たちが殺され、たくさんの若い女を連れ去られた。 俺たちの家族もそうだ。


 だから俺たちは奴らが許せない。だが俺たちの力だけでは奴らから女を取り戻し、奴らを皆殺しにする事なんて出来ない。だがそこに君が現れたというわけだ。」




 「頼む。力を貸してくれないか。この通りだ。」




 と言って、戦士長は頭を下げた。


 するとさっきまで肉に夢中になっていた少女たちも涙目になりながらも声を揃えて頭を下げた。




 「私たちからもお願いします!」




 みんな表に出さなかっただけで、奪われた人たちへの強い思いや盗賊への強い憎しみを抱えていたのだ。 




 「わかった。俺に任せてくれ。」




 「それに、ニャターシャから話を聞いた時からやると決めていたことだ。今更変わる事はない。」




 「ありがとう。アヤトよ。」




 俺は戦士長と握手をした。彼の握手はとても力強かった。

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