第6話 Fランク冒険者アヤト誕生

 「本日はどういったご用件でしょうか?」




 「ああ。 実は盗賊について情報を探しているんだ。何か知らないか?」




 「盗賊ですか......。彼らのアジトやボスの名前など詳しいことについてはわかりませんが、ここから北の方にある中央帝国と東帝国を結ぶ「東の道」で商人が襲われるという事件が何件か起こっています。」




 そういって彼女はこの世界の地図を持ってきた。


 地図を見るといろいろなことがわかった。


 この世界は前の世界でいうオーストラリアのような形をしており、大陸の東西南北には4つの帝国がある。


 俺たちが今いるこの村は、東帝国から南南西にやや離れた位置にあり、周囲を森に囲まれている。


 そしてその東西南北4つの帝国の中央には ジャックランゲル帝国 という中央帝国と呼ばれる大きな帝国があった。


 ニャターシャ曰いわく、この帝国は東西南北の4つの帝国と友好同盟を結び、各帝国との貿易で繁栄し、この世界で最も力のある帝国らしい。




 「なるほど......。」




 「お兄さんは冒険者ですか?」




 「いや、違う。」




 「冒険者登録をしていただければ商人の護衛の依頼などを受けることができますよ!」




 なるほどそれなら商人をエサに盗賊をおびき寄せることができそうだ。




 「ならぜひ登録を頼む。」




 俺は冒険者登録をすることにした。




 「それではこちらの水晶玉に手をかざしてください。」




 俺はその透明な透き通った水晶玉に手をかざした。と同時に、受付嬢も真っ白なカードをかざした。


 するとカードが黄色の光を放ち、表面に名前が刻まれた。




 「はい! 完了しました! アヤト様ですね! こちらが冒険者登録証になります!」




 「アヤトというお名前なのですね!」




 ナターシャが嬉しそうにこっちを見ていた。


 そういえば彼女に名前を教えていなかった。




 「ああ。 そうだ。 アヤトと呼んでくれていいぞ。」




 「わかりましたアヤト!」




 ナターシャは尻尾を振って笑顔で返事をした。


 かっ可愛い。女の子に名前で呼ばれたのはいつぶりだろうか。いや、呼ばれたことなんてないかもしれない。




 それにしても不思議な仕組みだ。 水晶玉に手をかざすだけでカードに名前が刻まれるなんて。魔法が関係しているのだろうか?


 仕組みが気になったが聞くほど興味はなかった。




 「それでは簡単に冒険者ギルドについての説明をさせていただきます!」




 受付嬢ユナはギルドの仕組みを教えてくれた。


 冒険者はそれぞれS〜Fのランクに分けられ、こなした依頼の難易度などに応じてランクが上がる仕組みのようだ。


 また依頼を放棄したり失敗したりすればランクは下がってしまうらしい。


 依頼に関しては、1つ上のランクの依頼まで受けられるようだ。




 俺は今Fランクだから......




 「それじゃあEランクの商人の護衛の依頼を紹介してくれ。」




 「わかりました! 確認してみますね!」




 笑顔が素敵な人だなあと俺は思わず受付嬢に見惚れていた。


 おかげでニャターシャがムッとした顔でこちらをみている事には気がつかなかった。




 「そういえば、お前も冒険者なのか?」




 俺はニャターシャにそう尋ねた。




 「はい! アヤトと同じFランクです! 薬草を買い取ってもらうために冒険者登録をしただけで、魔物討伐は出来ないのでずっとこのランクのままなんです。」




 「なるほど。それでさっきもいつものように薬草を取っていたら魔物に襲われたのか。」




 「はい。 普段はあの辺りにあんなに強い魔物はでないので油断をしていました。 改めて助けていただきありがとうございます!」




 その言葉を聞くたびに助けて良かったと思える。人助けってのは良いものだ。


 と二人で話していると、奥から受付嬢がにこやかな笑顔で帰ってきた。




 「ちょうど1件だけありました!」




 そういって渡された依頼書を見ると、




 依頼内容:依頼主と商品の護衛(ニャザール村〜東帝国間)


 日時:4月6日 ギルド前集合 


 報酬:銀貨1枚




 と書いてあった。


 銀貨1枚というのが高いのか安いのかわからないが今の目的は報酬ではないのでこの依頼を受けることにした。


 今日は5日らしいから依頼の日は明日だ。




 「ありがとうございました! それでは頑張ってください!」




 依頼の手続きを済ませた俺たちはギルドを出た。


 そこで俺は気づいた。お金がないため、食事もできず宿にも泊まれないことに......。


 俺が困った表情で立ち尽くしていると......




 「あっあの......よかったらうちに泊まりませんか?お金も持っていないようですし......うち、藁のベッドですが......。」




 「......!?」

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