レレイとお仕事のお話

 目の前の光景を見て、彼女は不思議そうにこてんと首を傾げた。何をそんなに大騒ぎをしているのだろう、と言いたげな顔だ。ころころと表情が変わる素直な性格はこういうときも変わらず、能天気な声が響いた。


「何でそんなに大騒ぎしてるんですか?」


 その声に、周囲がそちらを見た。彼らの視界に入ったのは、不思議そうな顔をしている一人の女性。少女のような雰囲気が残った、赤毛の女性だ。

 身につけている物は身動きしやすそうな冒険者のそれ。しなやかな手足や健康的に焼けた肌などが印象的な、元気なお嬢さんという印象の女性だった。それだけに、空気を読まない問いかけに、男達は面倒そうな顔をした。


「何でって、見れば解るだろう!?」

「いえ、見てもよく解らなかったので」

「荷物が崩れて道が塞がって困ってるんだよ!」

「……なるほど?」


 苛立っているらしい男に怒鳴られて、彼女はほむほむと頷いた。頷いたが、やはり、よく解っていない顔だった。大騒ぎすることかなぁ?という顔だ。

 何だこの女はと言いたげな周囲の視線も何のその。とりあえず、何を困っているのかを理解した彼女は、にぱっと笑って口を開いた。やっぱりその顔も声音も無邪気なものだった。


「じゃあ、アレ全部のけたら良いんだね!」

「「は……?」」


 呆気に取られる一同を気にせず、「何だー、簡単じゃーん。もっと難しいかと思ってたー」と楽しげに歩き出す。そうして、頑張るぞーとかけ声を一つ。

 男達が声をかける間もなく、彼女は荷物に手を伸ばした。ほっそりとした腕、細い指先が、当たり前みたいに荷物の箱を掴む。思わず誰かが制止の声をかけようとしたが、間に合わない。

 けれど――。


「えい!」

「「…………は?」」

「とりあえず横に詰んでおけば良いよねー」


 まるで空箱でも扱うかのように、荷物を次々と積み上げていく姿に、一同は言葉を失った。その荷物の中身は金属だ。鋼だ。合金だ。単純に、重いのだ。

 複数人で必死に動かそうにも複雑に重なって難しかったそれを、何故こんなにも易々と、と彼らは思った。彼らは悪くない。誰が見てもそう思う。大の男でも動かすのが難しかったものを、特に鍛えているようにも見えないお嬢さんが軽々と扱っているのだ。驚くに決まっている。

 しかし当人はどこ吹く風。まるで幼児が積み木でもするかのように荷物を脇に積み上げていく。軽々と。

 もしかして重くないのかと思って何人かが挑戦したが、一人では到底無理だったので諦めて複数人で取りかかっていた。その隣で、彼女はやはり、一人でひょいひょいと運んでいく。恐ろしい腕力だった。

 ただ、積み方はちょっぴり雑だった。性格が表われているのかもしれない。幸いなことに荷物は全て同じサイズの箱なので、多少適当に詰んでいても崩れることはない。

 

「おっしまーい!」


 しばらくして、大の男が数人がかりでも困っていた案件を一人で大半片付けた彼女は、満面の笑みでばんざーいと両手を挙げていた。感情表現が素直だ。後、皆が疲労している中、一人だけとても元気だった。ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 ちらちらと、男達は一番働いた彼女を見た。やっぱり、上から下までしっかり確認しても、ごく普通の子供っぽいお嬢さんである。あんな化け物めいた腕力と、この作業を平然とやってのける体力があるようには見えない。

 しかし、周囲のそんな意見など彼女には関係ないのだろう。作業が終わったことを周囲に確認している。そして、もう大丈夫だという答えを貰ったら、仕事が終わった!と言わんばかりの輝く笑顔を見せた。

 報酬貰いに行こうーと能天気に呟いて冒険者ギルドへかけていく後ろ姿はやはり、到底怪力には見えない女性のものだった。


「……何だ、アレ」


 誰とはなしに呟いた言葉に、返答はなかった。冒険者が応援に来るとは聞いていたが、予想外過ぎたらしい。確かに予想外だろう。屈強な男性とか、獣人とかの腕力自慢が来ると思ったのに、見た目は普通のお嬢さんだったのだから。中身は違ったけれど。

 その後、見た目は人間に見える彼女が猫獣人の身体能力を受け継いでいると聞いて、色々と納得する彼らなのだった。確かに適材適所ではありました。


(終)


オマケ

クーレ「お前、ちゃんと仕事したのか?」

レレイ「したよー?荷物をのけるだけの簡単なお仕事!」

クーレ「うわ、超お前向きの仕事。流石ギルマス」

レレイ「報酬貰ったからおやつ買ってきた!食べよう!」

クーレ「それすっから金が貯まらないんだぞ……」

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