第314話 共通点

「あ、ご飯あったんだ♪」


と、由紀は幹太の持つどんぶりを見て嬉しそうに言う。


「あったんだよ。こんな感じのやつだけど…」


幹太は、麺を食べ終えた後のカレーラーメンのスープに温かいご飯を入れていた。


「あぁ、長細いお米ね。

なんだっけ…インディカ米?」


「そうそう、それだ」


「つまりカレーラーメンじゃなくて、カレーライスってことよね♪」


そう言ってクレアは幹太の持つカレーライスにレンゲを差し、パクッと食べた


「うん♪麺もなかなかだったけど、こっちもなかなか美味しいわね♪」


「あ、やっぱりそうですか♪」


と、クレアに続いて由紀もカレーライスを食べる。


「うん。美味しい♪

これって、ちょっとだけトロミのあるスープだからかな?」


「そうだな。よく煮込んだスープって粘度が高いから、スパイスだけでこうなっちゃうんだ」


幹太は以前昼メニーにカレーを加えようとして挫折した時に、丸鷄ではなかったものの同じようなカレーを試作したことがあったのだ。


「まぁそん時はフレーク状の業務用ルーを使ったから、もっとドロドロだったけど」


ハンナがシェルブルックで食べたのは、幹太が持ち込んだそのカレーフレークを使ったカレーだった。


「確かにこれはお米にも合いますけど…幹太さん、これに街道ラーメンのチャーシューを加えるのはどうですか?」


アンナはこのカレーライスに速攻で肉っけを求めていた。


「お、それも美味そうだ」


「あれ?でもちょっと待ってください…もし相手が同じようなカレーだとしたら…」


「うん。きっちり仕上げてきたら強敵だな」


「ハフハフ…じゃあカレーライスで勝負しますか〜?」


ソフィアは、隣にいるアンナからカレーライスを食べさせてもらいつつそう聞く。


「いや、そりゃダメだろ」


「幹ちゃんたちはご当地ラーメンでって、ミッシュさんが言ってたもんね♪」


「うん。まぁそうでなくても俺たちゃラーメンしか作らないさ」


そう言って、幹太はアンナの方を見る。


「もちろんです♪」


「けど、ご当地ラーメンを作ろうとして、こんなに美味しいカレーができちゃうなんて、なんか不思議〜」


由紀はこのカレーライスがよほど気に入ったらしく、すでにご飯をおかわりしていた。


「まぁラーメンもカレーもスープから作るのは一緒だからな…」


「じゃあとりあえずカレーラーメンもなし?」


「うん。作ってみてわかったけど、こりゃウチのラーメンじゃないよ」


と、幹太はハッキリと言い切る。


「なーんだ、残念」


「んっ?何が?」


「私のアイデアが役に立つって思ったのに…」


「ん〜?いや、そんなこともないぞ」


「えっ!ほんとに?」


「うん。由紀のおかげで、ちょっと方向性が見えてきた」


「ほぇ?そうなんですか?」


そう聞いたのは、我慢できずにカレーにチャーシューを入れて食べているアンナだ。


「うん。なんかもっとストレートに考えた方がいいかなって…」


「「「「「「「ストレートに考える?」」」」」」


幹太の一言に、試食に参加していた女性陣だけでなく、キッチンの入り口に立っていたシャノンまでもが首を傾げる。


「でも幹ちゃん、これ以上ストレートに考えるってどうするの?」


由紀にしてみれば、暑いといえば辛い食べ物であり、カレーなのだ。


「そうなんだけど、もっと…なんていうか…」


「……」


と、答える途中で黙り込んだ幹太を見た由紀は、何も言わずに試食し終えた器を集めはじめた。


「由紀さん〜?急にどうしたんですか〜?」


なぜか黙って片付けを続ける由紀に、ソフィアはそう声をかける。


「ん〜と…たぶんこれ以上一緒にいたら邪魔になるかなって思って…」


「あ、なるほどです〜♪」


「私、旦那様がこうなるの初めて見ました。

本当に急にこうなるんですね…」


ゾーイは由紀やアンナから、ご当地ラーメン創作スイッチの入った時の幹太の様子を聞いていたのだ。


「フフッ♪最初はちょっとビックリするよね」


「でしたら、とりあえず私は残りますね♪」


「アナが残るなら私も残ります」


「じゃあ二人に任せて私たちは戻ろっか?」


「そうしましよ〜」


「はい」


「クレア様もそれでいいですか?」


「そうね。そうしましょ♪」


そうして由紀たちは幹太とアンナとシャノンの三人を置いて、厨房を離れた。


「けど、これからどうしましょっか…?」


と、由紀は隣を歩くクレアに聞いた。


「そうねぇ〜、オアシスの周りを散歩するのも飽きてきたしい〜」


そう言って、クレアは両手を挙げて伸びをする。


「市場はどうですか〜?」


「ソフィア、市場なんて私たちだけで行ってもしょうがないでしょ」


「…ゾーイさん、この辺りでどこか楽しい場所はないの?」


「ん〜?そうですね…」


と、由紀に聞かれたゾーイは頬に手を当てながら考える


「ないです」


ゾーイがそう言うと、由紀とソフィアがズルッとずっこけた。


「そ、そっか…この前もそう言ってたっけ…」


「そ、そうでしたね〜」


「あ!ゾーイ、私、行きたい場所があるわ!」


そんな二人を横目に、突然クレアはそう叫ぶ。


「ク、クレア様の行きたい所…ってどこです?」


何かイヤな予感がしたゾーイは、頬を引き攣らせながらそう聞いた。


「部屋よ♪部屋♪」


「部屋って…どこのですか?」


「そんなのゾーイのお部屋に決まってるじゃない♪」


「あ、それいい♪」


「いいですね〜♪」


「えー!」


そうして嫌がる一人とノリノリの三人はライナス邸へと向かった。


「皆さん、ようこそライナス家へ♪」


「……」


そして向かった先のライナス邸で四人を出迎えたのはオルガと、本来は彼女付きのメイドであるアメリアだった。


「お、お母様…なんで…?」


「なんでって…ここは私たちの家なんだから、私が王族の方をお出迎えするのは当たり前でしょ♪」


「そうだけど…」


「では皆様、お上がり下さい」


と、アメリアに促された四人は、ゾーイの部屋へとやって来た。


「わ〜♪なんかいつものゾーイさんのイメージとちょっと違う感じ♪」


入って早々、部屋のあちこちにあるぬいぐるみを見ながらそう言う。


「ゾーイ、ぬいぐるみが好きだったのね♪」


「あ、その…ぬいぐるみというか…動物が好きで…」


「ワンちゃんが好きなんですね〜♪」


と、ソフィアはベッドに座っていた大きな犬のぬいぐるみの頭を撫でる。


「フフッ♪そうなのよ。

ゾーイは小さな頃からワンちゃんが大好きで…」


とそこで、お茶をトレーに載せたアメリアとオルガが部屋へと入ってくる。


「アメリアは仕方ないけど、なんでお母様まで来るのっ!?」


「だってウチに来るってことは、皆さんゾーイのことが知りたくていらっしゃったんでしょ?」


「そうね、そのとーりよ♪」


「フフッ♪でしたらクレア様、こちらを…」


オルガはニヤリと笑い、同じ顔で笑うクレアに大きな本を差し出す。


「オルガ…これはなに?」


「もちろんゾーイのアルバムですわ♪

それも小さな頃から旅に出るまでの全て♪」


そう言って、オルガはウィンクする。

ちなみに、この世界で写真機はまだかなり高価なものである。


「すごいわ♪最高じゃない♪」


「あ!私も見たい!」


「私も見たいです〜♪」


「ダ、ダメですっ!」


ゾーイはオルガからアルバムを奪い取り、アルバムに群がる三人から遠ざける。


「ゾーイお嬢様…」


「な、何?アメリア…」


「写真というものはこういった時のためにあるではないですか?」


「そ、それはそうかもしれないけど…」


「うんうん。そうだよゾーイさん♪」


「で、でも…」


「ん〜?じゃあ、交換条件っていうのはどうかな?」


恥ずかしそうにアルバムを抱えるゾーイに、由紀はそう提案した。


「ほぇ?交換条件ですか?」


「うん♪」


「でもでも、今ここに由紀さんのアルバムは…」


「ふふっ〜ん♪それがあるんだな♪」


由紀はスカートのポケットの中から、スマホを取り出した。


「なんと!この中には柳川家のカメラで撮った幹ちゃんの写真が全て入っています!」


そう。

幹太と共にシェルブルック王国で暮らすと決めた由紀は、念のため自分の持っている全ての幹太との写真をスマホに入れて持ってきていたのだ。

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