第74話

 それからは行動は早かった。

 冒険者たちはその日の内に準備を終え、朝を待って出発。

 パティの案内の下、冒険者たちが森を進む。


 飛行蟲の討伐には、ギルドに所属する冒険者の七割が参加することになった。

 そしてその七割は、ライヤーさんの言うところの『一流どころとベテラン』ばかり。

 ネスカさん曰く、明らかな過剰戦力とのことだった。

 巣なんかあっと言う間になくなっちまうだろうぜ、とライヤーさん。

 ぜひそうなってもらいたいものだ。


 今回の討伐隊の指揮を執るのは、意外なことにネイさんだった。

 反応を見るに、みんなエルドスさんだと思っていたみたいだ。

 ギルドマスターが討伐に参加するのは稀なことらしく、ほかの冒険者たちも驚いていた。

 便乗して「俺も同行します」と言ったら、もっと驚いていたけどね。


 ネイさんもエルドスさんも、おまけに蒼い閃光の四人にまで「なんで来るの?」みたいな顔をされてしまった。

 みんなの視線が集まるなか、俺は肩をすくめる。


「言い出しっぺですし、なにより……俺はこの妖精の子分なんです。だから俺も同行させてもらいますよ。ああ、危険なのは承知の上です。必要なら別個で護衛依頼を出してでも同行させてもらいますからね」


 そんな感じのことを言い、なんとか同行を許された。そして森に入って三日目。

 遂に目的地まで辿り着いた。

 俺が流された川の先にある、大きな滝。

 その近くに飛甲蟲の巣はあった。


「あ、あそこだ! あそこが飛行蟲の巣だぞっ」


 パティが、ぴんと伸ばした指先で標的を示す。俺を含めた冒険者たちがその指先を追う。

 その指先は、滝から四〇〇メートルほど進んだ岩山を指していた。

 岩山の壁面にポッカリと空いた、大きな穴。そこにはワサワサとたくさんの飛甲蟲が出入りしていた。


「「「…………」」」


 巣穴を確認した全員が黙り込む。


「あそこに飛甲蟲がいるんだ! 他の妖精は近くの洞窟に閉じこもってるんだけどな、見てわかるだろ? あそこに巣があるせいでみんな外に出れないんだっ。食べ物も獲りに行けなくて困ってるんだっ」


 俺の肩に降り立ったパティが、悔しそうに顔を歪ませる。

 冒険者たちはただただポカン。ついでに俺もポカン。

 なぜなら――


「……ライヤーさん、」

「……なんだあんちゃん?」

「あれって……」


 飛行蟲の巣を指差し、続ける。


「もしかしなくても遺跡じゃないですか?」

「あんちゃんにもそう見えるってことは、おれの見間違いじゃなさそうだな」


 そうなのだ。

 飛行蟲の巣がある岩山。そこには人工的に削られた跡があり、なんなら岩肌には神様らしき姿が掘られた壁像まである。

 巣穴となった穴も両サイドには立派な門構えがあり、ただの洞窟ではないことをこれでもかと強気に主張していた。


「も、もともとあそこには変な洞窟があったんだ。ずーーーっと昔にどっかの種族が作った『ケンゾーブツ』だって族長は言ってたな。ケーンゾーブツは森のあちこちにあるんだけどさ、よりによって里に一番近いケンゾーブツを飛行蟲の奴らが巣にしやがったんだっ」

 さらっと遺跡が複数あることを告げるパティ。しかし冒険者の視線は遺跡に釘付け。

 パティの説明を、果たして何人の冒険者が聞いていたことやら。


 ◇◆◇◆◇


 巣穴となった遺跡の入り口は、高さ三メートル、横は二メートルぐらい。

 入口ではたくさんの飛行蟲が出入りしていた。サイズこそ違うが、まるで巣から出てくるアリやハチのようだった。


 ここから巣穴までは、五〇メートルほど。

 巣の一〇メートル以内に入ると襲い掛かってくるそうだ。

 すでに何匹かの飛行中はこちらに顔を向けていて、警戒してるようにも見える。


「シロウさんもパティさんも、ここで待っててくださいね」


 ネイさんが念を押すようにして言ってくる。

 すでに冒険者たちは戦闘の準備を終えていて、あとはネイさんの号令を待つだけ。


「わかってます。親分と一緒に待ってますよ。ね、親分?」

「あ、ああっ」


 巣が近いからか、パティは緊張していた。

 それを見てキルファさんが笑う。


「にゃっはっは。ボクたちがシロウたちを護るから大丈夫だにゃ」

「頼みましたよ、蒼い閃光のみなさん」

「任せときな。あんちゃんを守るのには慣れっこなんだ」

「そーそー。ボクたちに任せるにゃ」


 キルファさんが胸を叩く。

 ネイさんは頷き、踵を返す。


「それでは飛行蟲の討伐を開始しますわ。みなさん――」


 ネイさんが左右の腰に差された二振り剣を抜き、片方の切っ先を巣穴へと向ける。


「突撃開始ですわ! 遺跡に巣食う飛行蟲を殲滅しますわよ!!」


 こうして飛行蟲の討伐作戦がはじまり、数時間後には丸ごと駆除されたのだった。


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