第12話来客

 薄影旧知うすかげきゅうち


 刀也は眼前のそれに目を見開いた。

 いつぶりだろうか、そう思うほど遠い昔に会った覚えはある。

 あれ以来、消息不明となったはず。

 その目は細く、瞳は知れない。

 相変わらず何処を見ているのかわからない野郎だ、と溜め息を飲み込んだ。

 常に笑んだ口から吐き出す言葉が、今もまだ変わっていないのなら、きっとあの性格も相変わらずのはず。

「何の用だ。」

「なんや、おっかない顔して。安心しぃや。殺さへんわ。」

 ヘラヘラと笑う。

 それが影忍とは違って嫌悪感があった。

「お前…何処にいた?あれから、一切話も聞かねぇ。」

「せやなぁ。まぁ、お互い影が薄いねんて。今ァ、葉静におんねん。その遣いでな。」

 葉静……武雷にとっては不得意となる相手…!

 下手を打てば、余計今の状況を悪化させる。

「文を通せ。今、此方は色々と面倒なことになってんだ。」

「そう堅いこと言わんといてー?ええやんか、ガーッ喋ったらサッて帰るさかい。な?」

 どうも苦手だ。

 なかなか帰ってくれそうにない雰囲気…どうしたものか。

 ふと、影に重みを感じた。

 足の裏を軽く叩くような、有り得ない感覚。

 影忍…だな。

 耳元で、囁く声が聞こえる。

「主には話を通した。けど、主とは話せないって伝えてよ。相手は忍だと。」

 間違いなく影忍の声だ。

 そういえば、昔から主でなく忍が客の相手をすることはよくあったな。

 ここ、武雷だけの話だが。

「…わかった。だが、主は今手が離せねぇ。お前の相手は忍だ。それでもいいならついてこい。」

「なんや、話のわかる!って、なんでやねん!忍て!」

「此方では良くあることだ。それとも、帰るか?」

「まぁ、ええけど。」

 文句を言いつつも追ってついてくる。

 客間に通せば、あとは影忍の仕事だ。

 客間には、影忍の姿もない。

 当然か。

「ほな、後で。」

 ヒラヒラと手を振るのに応えてやらないまま、閉めた。

 後で、と言ってもそれは帰り際の話だろう。

 出来ればそれすら関わりたくない。

 消息が不明となっていたのは、ただ単に影が薄く話にもならなかっただけだったとは。

 ん?

 ということは、俺もそういう感じだったのか?

 武雷では墨幸様にさえ存在を知られなかった。

 影忍がかろうじて俺を見つけていたくらいだ。

 薄い影さえ見つける影忍、というのも言い方によっちゃ笑えたものだ。

 さて、武器の手入れでも…。

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