第28話
電車で揺らされること1時間、目的の駅に着いた。
空気の籠った空間にいたこともあってか外気が心地良い。
「うっわー。ぜんっぜん人いないわねー」
「観光地なんだよね……? 一応は」
太陽に照らされたホームには、見た感じ、哀斗とリミリー以外は駅員さんが一人いるぐらい。高さのある建物は一つもなく、時代を感じる木造の一軒家がぽつぽつ、それと広い田んぼ。
「あう……重力が花火のヒットポイントを……」
「何度も言ったでしょう。あんまり下向いてると気分悪くなっちゃうからってやめなさいと」
「おねえちゃん……でもう……。ゲリラが……ゲリラがあ……うぷ」
そんなやり取りをしながら、憧子が花火の背中をさすりながら降車してくる。
見るたび、スマホゲームをしていたせいか、酔ってしまったらしい。
「明音がゲームって何か珍しい感じがするよ」
「ふっ。ランカーの……はっ……花火を舐めないでくださいよ。そんじゅそこらのにわかとは違うのです、うっ……」
「この子、家でもゲームしかしてないんですよ」
そういえば、花火の趣味とか何も知らなかったなあ、と哀斗は新たな発見をする。考えて見れば、私服を見るのも初めてだし、学校外で会うのも初めてだしで、新鮮だ。
「勝手にインドア趣味じゃなくて、アウトドア派だと勘違いしてたよ。部活動探してる時とか、合宿やりたいーって言ってなかったっけ」
合宿をやる部活は、だいたい運動系、と哀斗は帰宅部の固定概念的なものを言っている。
「そ、そうですね……。合宿って青春って感じしますし……うぷ。それと、花火はアウトドアもよゆーでいける口です……舐めないでください……う……」
「そういえば酔ってたんだった、ごめんごめん」
と、今にも美少女あるまじき行動をしそうな青い顔で俯く花火へと、リミリーがスポーツドリンクを持ってきた。
どうやら、駅のホームにあった自販機で買ってきたらしい。リミリーはほんのりと、頬が蒸気している。
「まったく、高校生にもなって馬鹿ハナね」
「くぅ……。リミリー先輩、次は負けませんよ」
「アンタはさっきから何と勝負してるのよ……」
リミリー男の俺よりも男の子やってるなあ、と哀斗が思っていると。
「おっとっと」
足をもたつかせた憧子が、ペットボトルのキャップを開けるリミリーへと寄りかかった。
「哀斗、もう一本ね」
と、自販機に目をくれた。
「涼詩路さん、本ばかり読んでるからですよ」
「は、はい……うぷ。めんぼくありません……」
憧子の気持ち悪そうな顔は、花火とそっくりでなんだか微笑ましかった。
それから、ICカードの使えない改札を抜けてすぐのところに小さな公園を見つけた哀斗は、そこにあったベンチに電車酔いをした二人を休ませることに。
静かにしといた方がいいかな、ということで、ぐったりとした二人のもとから哀斗とリミリーは離れ、遊具の方へ。何も、遊具で遊びたかったというわけではなく、滑り台やらブランコが懐かしくなり引き寄せられるように移動したといった次第だ。
懐かしいわね、と塗装が所々剥げた滑り台をリミリーが撫でる。
「小さい頃はよく遊んだんだろうしね……」
10年前までの記憶があやふやな哀斗は、あくまで他人事だ。
感覚的に滑り台を滑ったりブランコで遊んだ経験というのはあるが、具体的に誰と一緒だったとか、いつ遊んだというところまでは思い出せない。あくまでぼんやりとした感覚が広がっているだけだ。
「ええ、そうね。哀斗ってば初めのうちは怖がって滑り台も滑れなかったんだから」
「えっ、うそっ⁉」
「こんな高いところからは無理だよ~って、男のくせに涙目になっててね」
リミリーは懐かしみながら、哀斗を茶化す。
「……リミリーと遊んだことあったんだよね、きっと」
「なーによ、そんなさみしい事言わないでよね。転校してきた時に、言ったじゃない、幼馴染だって。記憶が無いって言った時も結構悲しかったんだからね」
「ご……」
ごめん禁止、とのリミリーの言葉が脳裏をよぎる。
「ご?」
「ゴマ団子!」
「な、なにそれっ、ふふっ。馬鹿じゃないの、もーっ。ぶふっ……!」
リミリーは、お腹を押さえながら吹き出す。
それにつられて、哀斗も頬がゆるむ。
「(もし昔の思い出があれば、リミリーとは今とは違う距離間で接していたのかな)」
アスモウラとの契約によるヒロインとしての関係じゃなく、純粋な気兼ねなく話せる幼馴染として。といっても、今の環境に居心地の悪さは感じているというわけではない。ある程度親しくもなったし、一緒に居て気まずいこともない。ただ、違った第一印象も感じて見たかったし、知らないリミリーの一面も気になっただけだ。
そうこうしているうちに、とてとてと花火が駆け寄ってくる。
「あーくん! もう大丈夫ですよ! 花火、完全ふっかつです!」
その後を追うように、同じく血色の良くなった憧子も歩いてくる。どうやら、電車酔いが覚めたらしい。
「お待たせしてすみません。別荘、行きましょうか」
「別にいいわよ、それくらい。元気になったら問題なしっ」
夏の太陽のように、リミリーは明るく言い放つ。
その掛け声とともに、哀斗たちは、明音家の所有する別荘へと向かった。
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