第18話
今日は――とても暑い。仕事柄、外に出ることが少ないからか余計にそう感じる。
もし昨日、雨が降っていたのならアスファルトから煙が出ていただろう。
駅に着いた。
これから仕事相手と会うことになっている。簡単な打ち合わせのようなものだ。
待ち合わせている隣駅までは、電車でものの数分。
辺りを見回すと、自分の他にもう一人だけ。やせっぱちな体型のサラリーマンらしき人が居る。昼過ぎのこんな時間に電車待ちということは、営業の仕事か何かをやっているのだろうか。
『まもなく1番線に電車が参ります。黄色い線の内側に下がってお待ちください』
金属同士が擦れ合う叫び声のような音が徐々に近づいてくる。
あたしは、いつのまにか、サラリーマンの後ろについていた。
金属音は更に大きくなっている。
念のために、周りをもう一度見渡す。
遠くに駅員らしき人影が見えるが、視線はこちらに向いていない。
「(10、9、8、7、6)」
心の中で数を数える。
「(5、4、3、2、1――)」
『比鹿島―。比鹿島―』
高い金切り音と共に、電車が止まった。シリンダーから空気の漏れ出る音がする。まるで息を整えているようだ。
カウントをしながら無意識に持ち上げかけていたあたしの腕は、すんでの所で空をきっていた。
――なに、これ。
暑さを感じていたはずなのに、今はむしろ寒い。
全身を冷や汗がじっとりと包み込み、薄手のワンピースが肌に張り付く。
気づけば電車は発車していた。もう、時刻表を見る気は失せていた。
一人ホームに残されて佇んだまま、呆気にとられる。
「まただ……。また……。また、あたしは……」
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