第6話 ラビットキル
森の中を通る道をシャルと二人並んで歩くが、どこまで行っても同じような景色が続いており、本当にこの道で街に着くのか疑問に思ってくる。
そして、2時間ぐらい歩いたところで、俺たちの前にうさぎが出てきた。だが、そのうさぎは茶褐色で、1m以上あるような大きなうさぎだ。
見るからに悪そうな顔をしていて、歯をむき出しにして威嚇してくる。
「ラビットキルです」
シャルが呟くように言うと、背中の長剣を抜いた。
それを見て、俺も同じように背負った長剣を抜く。
二人で、両手で長剣を構えると、ラビットキルが声を出してきた。
「ウー、グルルル」
とても可愛いうさぎとは思えない、肉食獣の声だ。
ラビットキルも先程までとは違う雰囲気を纏っており、俺は足が震え出す。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、多分」
自分でも自信がない。だが、剣道は中学までやっていた一応有段者だ。自分を奮い立たせないと足手纏いになるかもしれない。
俺は一息深呼吸をすると、どうにか足の震えは収まったが、危険が去った訳ではない。
ラビットキルが、後ろ脚で地面を蹴り、こちらに飛び掛かって来た。
俺は相手の動きを見て一太刀入れようとする。最初に一太刀入ると、こちらが断然優位になる。
と、思った瞬間、目の前を銀色の線が走った。すると、ラビットキルの喉元に赤い線が入り、そこから鮮血が迸った。
俺はその機会を逃してはならないと思い、その鮮血のところを目掛けて剣を突きだした。剣道の突きの要領だ。
刺すと今度は刺した長剣を引き抜く。既に赤い線となっているところから、更に大量の鮮血が出てきたと思った瞬間、ラビットキルが倒れていく。
倒れる姿は、まるでスローモーションを見ているようだ。
それを見たシャルは、今度は短剣を取り出し、うさぎの皮を剥きだした。その手際は見ていて感心するほど要領が良い。
皮以外にも、耳や目玉、それに手を切り落とした。
うさぎを捌き終わったシャルの手は、血に塗れて真っ赤になっている。
「シャル、手が血だらけだ。どこか水があればいいのだけど…」
「大丈夫です。水はいつも持ち歩いていますから」
だが、竹筒に入れた飲み水ぐらいじゃ足りない。
そう思っていたが、シャルはマジックバッグから大きな桶を取り出す。今度はその桶で、マジックバッグの中から何かを掬うようにすると、桶の中に満水の水があった。
シャルはその水で、手を洗うと、今度はうさぎの皮も洗う。
「これぐらいかな」
洗い終わったうさぎの皮とそれ以外のものをマジックバッグに入れると、何事もなかったように微笑んだ。
「さて、行きましょう」
シャルに促され、俺は再び歩き出したが、シャルの強さは並大抵の強さではない。
そろそろお腹も減って来て、お昼という頃、街の外壁が見えて来た。
外壁の高さは約3m程だろうか。街を守るように立っている。道はその外壁の方へ続いており、外壁と道が交わるところに大きな門がある。
「大きな外壁と門だな」
俺は独り言のように言うと、それが聞こえたのかシャルが答えてくれた。
「魔物が出るんです。だから、それから守るために、あんな高い外壁を造ってあるんです」
「魔物ってさっきのラビットキルのような?」
「いえ、違います。もっと大型の魔物用ですが、でも大きな魔物も、こんな街近くには出て来ないでしょう。向うだって、こんな街に来ると、沢山の冒険者が居て、退治されると分かっていますから」
なるほど、現代世界だろうが、異世界だろうが、一番怖いのは人間って事か。
「そろそろ到着しますので、ローブを羽織って貰って良いですか?それとフードもお願いします」
「えっ、ローブにフード?」
「ええ、この街は獣人の街です。耳のない人が来たら、騒ぎになります」
ええっー!?獣人の街。まさに異世界じゃんか。だが、郷に入っては郷に従えという諺もある。ここはシャルの言う通りにしよう。
俺は、シャルがマジックバッグから取り出したローブを羽織ると、フードを被った。
「琢磨、似合ってますよ、フフフ」
最後の「フフフ」ってどういう意味なんだろう。聞いてみたいが、惚けられたらどう対処したら良いか分からないので、そのままスルーする。
見るとシャルもローブを羽織って、フードを被った。
門の所に来ると、門兵が入域者を確認している。この門兵にも耳がある。この門兵は何族なのだろう。
「名前は?」
「シャルロッテ・アーゼルベルグ」
「こっちは?」
「夫のタクマ・アーゼルベルグ」
夫では無いが、ここは黙っておいた方が良いだろう。俺は、シャルに任せる事にする。
「用件は何だ?」
「商用と買い物です」
身分証とかは無いようだ。名前を確認すると、文字が書かれた木札を渡してくれた。
その半分は門兵が持っているようで、俗に言う割符という物のようだ。
「良し、行っていいぞ」
門兵に許可を貰った俺とシャルは、門を潜って街の中に入った。
中に入ると、遥か先に高い城があり、道はそっちの方に向かっている。
道はかなり広く、現代風に言うなら4車線になっており、馬車はその一番右と一番左の道を進んでいる。
ここは外国のように右側通行のようだ。
だが、4車線ある真ん中の2車線は誰も歩いていない。
「シャル、何で真ん中の車線は誰も通らないのですか?」
「あの車線は貴族と軍専用の道なんです。ですから、一般市民は通行禁止です」
俺たちが道路の右端を歩いていると、真ん中を漆塗りの煌びやかな馬車が走って行った。
どうやら、あれが貴族の馬車のようだ。
「ここは門が東西南北の4つあって、その其々の門から同じように4車線の道が国王さまのお城まで続いています。
ですが、そういう道は4本しかありませんので、他の道は一般市民と貴族の区別はありません」
何か緊急事態が発生したら、軍隊が直ぐに駆けつけるように中央の車線が貴族、軍用になっているのだろう。
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