第33話 巨竜
リザードファイターを含む冒険者たちの猛攻が続いている。ゼロはここを攻め時と定めたらしく、温存していた戦力を惜しみなく投入している。
俺とヨウコ、ニカさんとトリスは攻撃のチャンスを待ちながら待機中だ。先程から
隣ではヨウコがトリスの手首を握りしめて
「…………」
伝達効率を上げるためか、ヨウコは真剣な表情でトリスの手元を見つめている。気づくと相棒の頭を撫でようと勝手に手が伸びていた。
「旦那様? 回復、必要でした?」
「……あぁ、うん。そんな感じ」
怪訝そうに首を傾げ、ヨウコはそのまま耳を差し出してくる。気付いてなさそうなので撫でることにしよう。トリスとニカさんの視線を感じるけど後回しだ。
魔法攻撃以外で目を見張るのはリザードファイターだ。敵を足止めしてからは次々にその身体に取り付き攻撃を繰り返していた。大型の獲物を狩るのが本分だと豪語するだけあって、連携がとれていて着実にダメージを与えている。
『ひぃぃ、あわわ……!』
特にリザードファイターに同行し鉄壁のディフェンスを誇る黒髪の少女はブレスのほぼ全てを無力化している。ゲロ子ちゃんだ。彼女は守護神の如き目覚ましい活躍とは裏腹に、怯え狼狽え悲鳴を通信網に乗せている。早々にゲロ子ちゃんの能力を見抜いた族長が彼女を抱えて駆け回っている。そして誰よりも果敢にブレス目掛けて突っ込んでいた。
『ヤバいです、ヤバいです、ヤバいです……!』
『ならばいっそう気張れと言ってるだろうが、貴様ァ‼』
またもブレスは直撃する前にゲロ子ちゃんの炎術制御でかき消されてしまう。
いよいよ敵も手詰まりだ。誰もがそう思い始めた矢先、
§ §
ギィィ、ガァァァッッ‼
怒りと痛みを絞り上げるような叫びが天を突いた。その咆哮に誰もが戦慄し脚を止める。吐き出され響き渡る狂気に肌は総毛立ち、血の一滴一滴が恐怖という針となって身体中を刺し貫く。
赦さない赦さない赦さない。叩き潰し踏み付け、蹂躙し滅ぼさねばならぬ。この場にいるすべての冒険者の頭蓋に暴君たる者の憤怒の声が刻まれる。
ある者は慄き、ある者はへたり込み涙を浮かべるが
「なんだよ……あれ?」
その言葉を発したのは誰なのか。自分の声かさえ定かでない。
咆哮と共に――いや、咆哮によってそれは生じた。
赦さない赦さない赦さない。
誰もが釘付けのままその姿に見入ってしまった。
ガァァァッッ‼
漆黒の角が赤い光を放ちながら赤銅色に染まっていく。あれはダメだ、止められる代物じゃないと本能が警告を発する。
ゼロからの退避指示に族長とトリスがなんとか応えて退避が始まる。
『旦那様、攻撃をよく観ていてください……』
『……了解』
ヨウコに促されてハッとする。そうだ、敵の出方を窺わないといけない。
グギィィィァッ‼
金切り声にも似た叫びと共に力が解放される。眩い光が
『敵が動き出すぞ。我々の捕縛呪術がこうもあっさりと焼き切られるとはな……』
族長の言葉の通り
ガァァァッッ‼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます