騒音譜 2

湿原工房

1.熱病

天の川の旋回にはじかれた韻律は真空で鳴く

いくつかの太陽はすでに老い

魚の目の凍るすきまへさしはさまれた男根に

桜がちる

病床もまた真空で熱病を冷ましているから

どんな豪快な言葉の投げようもない

海に射す月光は跳ね返され

一条の光の柱の幻影に裂けていく

その裂け目から響く絶叫が誰の耳に届くことのあるか

ただ苦痛のみの身となって

鰹の削り節かなにかになればいい

しけった削り節だ

いじけたカラビナだ なにを繋ぎ止めようとしたのか

46億年を殺した畳の上で

おはじきをまたはじく女がひとり

小指の爪で線を引く

惑星の豊かに寄せる憐憫の殺到

険悪な宇宙をまた思い出すなら

哲学の道から出で有れと熟れ

かなしく熟れてこぼて

シチューの時間を思考の罹患と聞き間違えた夜

またカラスが鳴く鳶が鳴く丹頂も鳴けば熱病も鳴く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る