第21話 相手をするのは、めんどくさい。

どうやら午後の授業に現れない私を心配したスピカが「もしかして具合が悪くなって保健室に行ったのかもしれない」と思い、確認しに行ってみれば教師に私が行方不明だと言われアステルに相談して今まで必死に探してくれていたらしい。



おふ…私が弥太達と遊んでいるうちにそんな事があったのね

配慮が欠けてたなぁ…アリバイ工作してから行けば良かった



校内を探しても見つからないので誘拐されたり、事故に巻き込まれたりしたのではと不安に思っていた所やっと私の事を見つけたとのことだ。


「無事で…良かったっ…」


そう言って私の制服を涙で濡らすスピカは離さないと言うようにぎゅっとしがみついてる。

妹が可愛すぎて人前じゃなければ抱きしめ返してるところだ。


「………心配させてごめんなさい。フォーン様も、ご迷惑お掛けして申し訳ありません」


「…………いえ」


てっきり詰問されると思っていたがアステルは首を横に振って視線を私の腕に向ける。

昼間の火傷を心配しているのだろうか、何か言いたそうな顔をしていたがスピカがいる場所でその話は出来ない。


「…スピカ、顔を洗ってらっしゃい。淑女が人前でそんなに泣いてはみっともないわ」



ここまで心配してくれたのはお姉ちゃん嬉しいけど、目が腫れたら可愛い顔が台無しになっちゃうからね

泣いてても可愛いけど腫れるまではあかんよ



そんな意味を込めて優しく頭を撫でハンカチを差し出すとスピカは頷き「すぐ戻ってくるからここにいてね!」と言い残してお手洗いの方へ歩いていった。


残されたのは私とアステル。

二人きりになってしまった、この人の相手は正直めんどくさいけれど仕方ない。

スピカにいらぬ心配をかけるよりよっぽどいい。


「……怪我は、もう大丈夫なのですか?」


スピカの姿が見えなくなると話し掛けられる。


「えぇ、ご覧の通りです。あの程度の傷ならすぐに治せますもの」


証明するように袖を巻くって見せるとアステルは眉間にシワを寄せる。

そのうちシワが刻まれて消えなくなりそうだ。


「…あの後、貴女に怪我をさせた女子達には注意しておきました。また何かあったら私の言葉など気にせず、自分を守ってください」


アステルの言葉に私は目を瞬かせる。

魔法使用許可が出ただけでなく、アステルが直に注意しにいったとはどのような風の吹き回しだろう。

彼の中で私は絶対的な悪なんだろうと思っていた。


「…わかりました」


アステルの変化に驚きながら頷くことにした。






◇◇◇


その後、何処へ行っていたのかと尋ねる教師達やスピカには「目眩がして動けなかったので屋上で休んでいた」と嘘をついた。

スピカにまで嘘をつかなければいけないのは心苦しいが弥太達の事をペラペラと話すことは躊躇われたからだ。彼らの事は私だけの秘密にしておきたい。

屋上までは誰も捜索してなかった上にアステルが然さり気なく援護してくれたので誤魔化すことに成功した。


説明が終わる頃にはすっかり放課後になっていて、既に迎えの馬車は到着していた。

今回の事は両親に告げ口はされないらしい。後からスピカに聞いたのだがこれもアステルが教師に手を回してくれたのだとか。



一体どうしてかしら……?

…もしかして私を庇うことでスピカに良いところを見せたいって言うやつなのかも

スピカってば本当にモテモテね、さすが私の妹だわ



スピカが人に好かれていると私まで嬉しくなってしまう。

そんな気分のまま帰ろうと馬車が来ているロータリーまで行き、我が家の馬車を見つけて思わず足を止めた。


「……お姉様、どうなさったの?……うわ」


立ち止まった私の視線を追い掛けスピカが頬を引き吊らせる。

我が家の馬車の前で私達を待っていたのはにこやかに微笑みを称えたニクスだった。

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