第16話 カラスの恩返し-参

「俺達は元々日本で生まれて日本で育った。けど次第に住める場所も減ってきて餌にもありつけなくて…挙句に人間に命を狙われる始末だ。それで仲間と一緒に新しい住処を求めていろんな世界を転々として、ようやくここに腰を落ち着けたところなんだ」


「…大変だったのねぇ」


「俺は仲間達と協力してこの世界まで来たが……アンタはどうなんだ?」


「私は転生したの。その記憶を思い出したのはつい最近なんだけどね」


「転生……そんなことあるんだな」


「あるから私はここに居るのよ」


目を丸くしたヤタガラスが可愛らしくて思わず笑みが溢れる。


動物って癒される、アニマルセラピーってこんな感じなのかな?


「ねぇ、良かったら私と友達になってくれない?」


人間の友達はこの先も期待できそうにない、それなら姿は違えど同じ故郷出身のヤタガラスと友達になれたら。

そう思って尋ねて見るとヤタガラスはカラカラと笑う。


「俺と友達?アンタそんなに話し相手に飢えてるのかよ。見た感じ良いとこのお嬢様なんだろ?取り巻きなんざいくらでもいるだろうに」


「そんなことないわ、私は悪役令嬢だから」


「悪役?」


首をかしげるヤタガラスにこの世界が乙女ゲームの世界であり、私は悪役であると言うことを告げる。

驚いた事にヤタガラスは人の文化に意外と詳しく、恋愛ゲームの存在を知っていたので説明は楽だった。


「だから私は友達もいないし…やること全部、悪い事だと思われてしまうことが多いのよ」


「………アンタはそれを変えようとしたのか?」


「出来っこないわ。それに私が何かして物語を変えたりしたらヒロインの妹が幸せになれなくなるもの」


「それって、妹のせいにして自分は不幸に甘えてるだけじゃねぇの?」


不意にかけられた言葉に思わずヤタガラスを見つめる。

否定が出来なかったのは図星だったからかもしれない。


「……そう、なのかもね」


いつも面倒だからと物事から逃げている部分は確かにある。

けれど、私には物事に立ち向かっていけるほどの確固たる意思がない。両親の事も、妹の事も、この学校での生活だってきっと頑張れば変えられる。

でもそれを変えようとしないのはどこがで私がこのままでいいや、と思っているからだろう。

変えようがない事も中にはあるけれど私は最初から変えようとする努力をしていない。

ヤタガラスはそれを『甘え』だと言ったのだ。


「……私は、どうしたら良いのかな…」


両親に歯向かった上で妹を守れるだけの強さがあれば、うまく立ち回れるだけの技量があれば、何か変わっていたのだろうか?

それとも物事に耐える忍耐強さを身に着けるべきだったのだろうか?

たった一人でも心のうちを見せられる友人がいればもっと前向きになれたのだろうか?

今から変えられたとしても、どうすればいいかわからない。

そんな『もしも』がいくつも浮かんでは消え、不安がじわじわと込み上げてきて暗い気持ちになってしまう。


私が俯いてしまうとヤタガラスが慌てて顔を覗き込んできた。


「そんな顔すんなよ!俺が虐めてるみたいだろ!」


「ごめんなさい、そんなつもりじゃないの……ただ、貴方の言う通りだなって思ったら自分が情けなくて。一人でも戦える強さがあればもっと違ったのかしらって」


「…お前、一人だったのか?」


「何から何まで親の言いなりで育ってきたから、仲良くなりたい子がいても仲良くなれなかったのよ」


「…すまん、無神経な事言った。アンタ、相談できる奴も居なかったんだな」


ヤタガラスは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる、同情されたのだろうか。


「気にしないで」


実際に甘えていたというのも外れてはいないのだ。生きると言うことは本当に難しい。


「なぁ、アンタ友達が欲しいんだろ?それなら俺の仲間を紹介してやるよ」


そう言ってヤタガラスは楽しげに目を細めた。

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