第12話 カラスの恩返し-壱
「今戻った」
カークラ邸より遠く離れた位置にある森の中、そこに鎮座する大樹の根本に着地するとヤタガラスは口に咥えていたものを地面に下ろし待たせていた同胞達に声をかけた。
「おっそーい!人間に捕まったのかって心配してたんだからっ!」
ひょこりと木の影から顔を出したのは真っ黒い毛並みに金色の瞳をもった猫である、ただし尻尾は根本から二本に分かれそれぞれ意思を持っているようにゆらゆらと揺れている。
猫の隣から同じ大きさの獣が顔を出した、銀色の毛に覆われ金の瞳を光らせた狼だ。
「お前が手間取るとは珍しいな」
何かあったのか、と問う狼にヤタガラスは出先での出来事を話して聞かせた。
「不注意で怪我をしたところを人間に助けられた、か。変わった者がいたものだ」
狼は楽しげにくくっと笑う。
「そんな優しい人間ばっかりだったら私達だって住み慣れた土地から離れる事もなかったのに…」
「まぁそういうなって、遅かれ早かれこうなってたさ。あの世界は…もう俺たちが住める場所じゃない………それより見ろよ、いいもん貰ってきてやったぞ」
不満を呟く猫にヤタガラスは紙に包まれたあられを押しやる。すると猫の瞳がぱっと輝いた。
「あられじゃない!この世界にもあるなんて……食べていい?ね、食べていいでしょ?」
「いいけど三等分だからな!?独り占めすんなよ!?」
「わかってるってー」
「む、数を数えてきっちり分けるのだぞ?」
「もうっ、細かいなぁ…ざっくりでいいのよ、こういうのは!」
「こら、そう言って自分の分を多くするな!」
故郷で見慣れたものがこの世界で食べられるとは思わなかったのだろう。猫も狼も嬉しそうだ。
ヤタガラスは仲間の嬉しそうな姿に満足しながら、傷の手当てと懐かしい食べ物を寄越してくれた人間の少女に礼をしに行こうと決めた。
何より少女の見せた一瞬の笑みが頭から離れないのだ。それに自分の種族の事も知っていた。
同じ世界の住人か、はたまた自分の故郷を知る人間か…どちらにせよ確認する必要がある。
そんなことを考えながらヤタガラスは均等に分けられたあられをくちばしでつついた。
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