第2話 最強は長生きしてほしい

えー、初めましてレオンです。

今回は俺の語りで進めていこうと思います。

というのも、クリスタとの共同生活が半年目を迎え、この半年の間に常識とか、常識とか、あと主に常識とか色々ぶっ壊れてしまった俺の現状を皆さんに少しでも知ってほしいわけですよ。


「レオン、今日はお土産を持ってきたぞ」


そう言って玄関を開けたクリスタが、もぞもぞと動く麻袋を引きずりながら俺のところまで歩いてきた。


「その若干トマトソース的な何かが付いてる麻袋はなんだ・・・・・あぁ、中身は見せなくていいからな?どんな矢部衛門がはいってるかわかったもんじゃねえし」


「ヤベエモン?まぁいい、貴様の為にわざわざ取ってきてやったのにその言い方はひどいのではないか?」


そう言って未だに動いている麻袋を俺に押し付けてくる。


「わっわかった!わかったからそんなもんを押し付けんな!中身はクリスタが出してくれ!」


不満げに眉を歪ませるクリスタだったが、俺が中身に興味があるとわかるとすぐに笑顔を取り戻し、袋の中に手を突っ込んだ。


「うむ、貴様が前に「この肉体も老化するんだろうか」と言っていたのでな、今回はその悩みを解消してやろうと思って・・・・・・・・仙人を捕ってきた」


そう言って麻袋からは、顔中ぼこぼこにされた痕跡のある、白いひげの生えたおじさんが出てきた。

青く腫れ上がった瞼の下からうっすらと見える瞳が俺とぶつかると、爺さんはなぜか余裕な表情で髭を撫でつけながら話しかけてきた。


「フォッフォッフォ、小僧、貴様が小娘が言っておった男で間違いないか?」


「すみません人違いですおかえりください」


袋の中にそのオヤジを押し込もうとすると、オヤジも袋のふちに手を掛け、必死の抵抗を見せてきた。

というかカブトムシ感覚で爺さんを捕まえてくるんじゃねえよ!


ごきり、と音がして、急に爺さんの手から力がなくなった。

袋の中を覗けば爺さんの首が90度くらい曲がって、泡を吹いている。


「うむ、少しやかましかったので静かにさせた」


「え、え、死んでないのこれ?大丈夫ほんとに?」


「仙人はそれなりにしぶとい、それにこいつらの持っている仙桃を食えば寿命が永遠に近くなるらしいぞ」


「いや永遠って」


「私と永遠にいるのは嫌か?」


今にも泣きだしそうな顔で俺を見つめるクリスタ。

この地獄のような半年間で分かったことの1つ目は、クリスタは防御力ゼロで、めちゃめちゃ打たれ弱い(メンタル)のだ。

俺が少し不機嫌そうにしているだけで、他の世界から竜王とか凄そうなのを拉致して玉乗りさせたり、死神の骸骨ボディーを分解してジャグリングをしたりと、必死に機嫌を直そうとしてくれる。


「いや、そうじゃなくてな、俺が永遠に生きたとしても、お前はどうなのかと思ったんだ」


俺が一人で永遠に生きるとか嫌すぎる。

まあ今の現状も相当嫌なのだが、若干慣れ始めているきらいがある。


「あぁ、そんなことか、私は既に自分の寿命を“滅ぼした”から大丈夫だぞ!だが、貴様にそう思ってもらえてるとわかっただけで・・・・嬉しいものだ」


心底嬉しそうに、後光が注すような笑みを浮かべたクリスタ。

こうしてれば可愛いだけなんだけどな。


そう思って俺は足元に転がる血の付いた麻袋に目を向けた。


「ふぉっふぉっふぉ、少し油断してしもうたわい」


ツボの蛇の様に麻袋から出てきた・・・・・ツボの重症の蛇にように麻袋から辛そうに出てきた爺さんを見やる。

爺さんはプライドなのか見栄なのかわからないけど「は?俺?全然余裕なんですけど?」とでも言いたげな顔で吐血し始めた。


「ぶふぉっふぉっふぉ」


「吐血をごまかしたッ!?」


「おい貴様、私とレオンの家に何ゲロを吐いてる、滅ぼすぞ」


怒るところが可笑しい。

それにこれ間違いなくアンタのせいだぞ!


「滅ぼすとな、この仙人を?」


「現に仙人界を少し滅ぼしてやっただろうが」


「お前は何してんだよ!」


再びスパーンとスリッパで頭をはたくが、以前のような苛烈なカウンターは飛んでこない。

それどころか、少し頬を赤くして俺をちらっと見ただけに終わった。

これは以前に俺が王都でガリオンに保護された時に、ガリオンがこっそりクリスタに「ツッコミは愛情表現、夫婦のコミュニケーションのような物」といったからに他ならない。

しかし、なぜか毎月ガリオン家から何故か俺宛てに様々な贈り物が届くようになった。

どうやら俺も王都で最強の旦那と称され、信仰を集めていると同封されていた手紙に書いてあった。


「レオン、聞いてくれ、このじじいは私に向かって『ふぉっふぉっふぉ、生意気な小娘が仙人の聖域に何の用じゃ?』とぬかしおったのだ」


「ふぉっふぉっふぉ、その後にこの小娘の力を少し測ってやっての、まぁ、少しくらいなら力を貸してやらんこともないと思い着いて来てやったのじゃ」


「ぼこぼこにしたら言うことを聞くからといってきて、ついてこいと言ったら逃げたので少し滅ぼした後、もう一度ぼこぼこにして捕まえてきたんだ」


「まぁ、仙人は小娘相手に本気になる訳にもいかんしな」


「仙人界の自称精鋭をひと撫でにしてやったときは気分が良かった」


「まぁ、あのような未熟者共は自分で自分を強いと思っているからの、本当に強いものは小娘一人に目くじらを立てんものよ」


「その後に仙人界最強の仙人とかいうのが出てきたが、そこらの有象無象と何も変わらなかったな」


「ふぉっふぉっふぉ、所詮は井の中の蛙じゃ」


「その後に結局仙人界にいた仙人どもを全員ぶちのめして、この仙人を捕まえたのだ、少しだけ面倒だったがレオンの為に頑張ったのだぞ、心して褒めろ」


「・・・・あ、あれは偽物じゃ」


どうしても認めたくない爺さんが横から何か言ってくるけど・・・・くしゃみで世界が崩壊するような女だぞ?

あんまり食らいついてもいいことない気がするけど。

と言うかこの性格だからボコられたんじゃね?


「さっさと桃を出せ」


「ふぉっふぉっふぉ、昨日全部食ってしまったわい」


「今すぐ仙人界を亡ぼしてこよう、あそこのじじい共はいつも私にあれこれ言ってきて前からむかついていたのだ、丁度いい機会だし、レオンもこの世界の仙人界の最後を一緒に見に行くか?」


「おっと、こんなところにたまたま偶然、奇跡的な確率で仙桃があったわい」


ぬけぬけとそう言った爺さんはどこからともなく桃を出し、それをクリスタに震えながら渡していた。

震えるぐらいなら意地張るなよ・・・・。


「よし、貴様はもう用済みだ、さっき吐いたゲロを片したら帰れ」


「扱いひどすぎるだろ!」


「何を言ってる、こいつらは仙人になるためのマル秘メゾットとかいうのを販売していてな、友人を紹介すると金がもらえるとかで一時期とんでもなく流行ったが、結局そのメゾットを購入した人が誰も仙人になれなかったので多くの者の恨みを買っているのだ」


「完全にマルチじゃねえか・・・救いようがねえ・・・・・」


「ふぉっふぉっふぉ、仙人の道は険しい、耐えられぬやつらが悪い」


「クリス、もうコイツ滅ぼしていいや、きっと殺すことでしか救えないやつもいるんだってわかったし」


「うむ、任された」


「ちょちょっ!帰る!儂直ぐ帰るからな!さらばだ!」


そう言って足早に走り去っていった仙人の爺さん。

そこで俺はふと思い出したことを言ってみた。


「ってか俺、桃嫌いなんだよね」




その日、世界で初めて光よりも早く移動する桃が観測された。

それと同時に、光よりも早く動く人のような物体も同時に観測されたとか。

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