極貧島のマネーライフバランス

ちびまるフォイ

最高の景色を楽し見たい人はイカダでどうぞ

漂流生活3日目。


「ああ……もうだめだ……もう一歩も動けない……」


3日目にして精神だけで動かしていた体も限界に達した。

浜辺に寝そべり、食べ物はないかと目だけを動かす。


「……あ?」


食べ物はなかったが、貯金箱があった。


「どうみても……漂流して流れ着いたってわけじゃないよな」


貯金箱は郵便ポストばりに大きい。

こんなものが流れ着くなんて考えられない。

人為的に誰かが設置したのだろう。でも誰が。


ぐぎゅるるる~~……。


「ダメだ……考えごとなんてするんじゃなかった……。

 頭を使えばお腹が減ってしまう……最後に食べたのはなんだっけ……」


体力がなくなったあとに襲ってくるのは膨大な時間。

退屈しのぎに、もう使いみちのないポケットの小銭を貯金箱に入れる。


チャリンチャリン。


貯金箱の底から小銭が落ちる音が聞こえた。


「ははは……なにやってるんだろ……。幻覚とかだったりして……」


倒れようとしたとき、浜辺にまた別のものが目に入った。


「あれは……焼き肉……!?」


今度こそ幻覚だと思った。幻覚だと思うから食べてみるしかない。


「んんん!? うまい!! これ幻覚じゃないぞ!? どうして!?」


無人島に電気コンロが火を点けっぱなしでおいてあるなんて超常現象は

どうひっくり返っても考えられない。


腹を満たすまではそのことにも考えが及ばなかったが、原因はひとつだった。


「この貯金箱か!?」


ふたたびお金を入れると、今度はお弁当が波打ち際に流れてきた。


「うっひゃあ! ペットボトルのお茶つきかよ!! 最高じゃん!!」


お金を入れればフルーツの盛り合わせがバスケットで流れてくる。

無人島に漂流する前に持っていた所持金をすべてつぎ込むと、

自分が漂流していたことすらも忘れるほど快適無人島ビーチバカンスを味わった。


そんな風に後先考えず、衝動にまかせてしまったのを後悔するのは翌日だった。


「なんで俺はもっと計画的に使わなかったんだろう……」


翌日は空腹で目が覚めた。貯金箱はあってもお金はもうない。


体はいくらか回復したので体力のあるうちに獲物を撮ろうと海に出ても、

食べれそうな山菜でも探そうと山に向かっても、なにも成果はなかった。


「おかしいな……昨日まではこんなじゃなかったのに……」


人の手が入っていない美しい海には魚が散々泳いでいたのに、

今日になって急に魚の影も形もない。


原生林そのままの姿でいろいろな実をつけていた植物も、

ぺんぺん草しか生えていない枯れた土地になっていた。


「こんなに急に変わるなんて……いったいなにが……」


結局、無駄に歩き回るわけにもいかずにおとなしく待つことにした。


一度満腹を味わったあとの空腹は耐え難くのしかかる。

それでも翌日まで歯を食いしばりながら耐え抜いた。


「あれ……? 魚が少し戻ってる……?」


朝日に照らされた海には、昨日は影もなかった魚が戻っていた。

水を汲みに行くと枯れていた土地にまた植物が実をつけている。


「まさか……この島って、金を使えば人が充実して

 金を使わなければ島が充実するんじゃないか……」


その仮設はポケットに挟まっていた最後の小銭で立証された。

お金を入れた途端に生活用品が届き、島が腐り食べ物がなくなった。


金を使って楽をするか、我慢して島を充実させるか。


「なんとしても、救助が来るまで死ぬわけにはいかない……!」


固く決意し、体力が続く限り島の周りをぐるりと探索した。

できるだけ波打ち際を歩くと、落とし物やお金になりそうなものが漂流する。


それらを集めて貯金箱の前にストックする。


「本当に限界がきたらこれで命をつなごう。

 それまでは島を劣化させないためにも我慢だ、我慢……」


金を使って島を劣化させれば、魚も取れないし水も枯れてしまう。

そのままお金がなくなれば死ぬしかなくなる。バランスが肝心。


そして、なにより……。


「この島にはあるはずなんだ。隠された財宝が……。それさえ見つければ……」


もともと、この島近くにある財宝を求めてやってきた。

波にさらわれて目的の島に漂着するまではトレジャージャーハンターだったが、

いまもって、本来の目的を思い出して島を探す。


適度に金を使って食事ととり、島の物資も取りつつ命をつなぐ。


島にはいくつもの白骨が見つかり、まるで自分の未来かのようにつきつけてくる。


「負けるものか……俺は……絶対に諦めない……」


大きくない無人島を何周もしてもけして財宝は見つからなかった。

あったのは島の反対側に貯金箱があるくらいだった。


「ざいほう……きんぎん……ざいほう……」


うわごとのように繰り返し、砂に足を取られて転んでしまう。

起きようにも身も心も限界でこのまま意識を手放してしまいそう。


「この島に財宝なんてなかったんだ……くそ……。

 金さえあれば……金さえあれば……あの貯金箱にいれて……」


倒れながらも視線の先に貯金箱をとらえる。

そして、脳が消しカスほどのエネルギーをもとにひらめきを与えた。


「あ……。財宝の隠し場所って、まさか……!?」


貯金箱に走ると、近くにあった流木で貯金箱を破壊した。

中からは自分以外の漂流者が使ったであろう金銀財宝がじゃらじゃら出てきた。


「やっぱりだ! みんなこの島に来て、自分のお金をここに入れてたんだ!」


手に入れた財宝を持って、残ったもう片方の貯金箱に向かった。

あとはこれを入れればきっと豪華クルーザーだって、漂流するだろう。


貯金箱の受け口に手を伸ばす。


貯金箱の背中越しに自然豊かな島の風景が見えた。

夜になると、手付かずの自然ならではの幻想的で雄大な風景が見られる。



もし、俺がこの島にお金を落としたらどうなるのか。



これだけの金額、間違いなく島は死んでしまう。

でも、お金を入れれば便利な品物が確実に手に入る。


でも――。


「ああああ! ダメだ! なんで俺は金に頼ってるんだ!

 金がなくったって、解決できることはあるじゃないか!!!」


持っていた貴金属のネックレスを砂に叩きつけた。


俺は金を使わなかった。

それにより島の自然はますます豊かになった。


いくらでも木を刈り取っても、まだまだいくらでも数はある。

金に頼ることなく、自然のものだけでついにイカダが完成した。


「金なんて、人から工夫を奪うだけだ」


島から脱出する頃には、もうお金を使って解決するなんて考えることもなくなった。





やがて、たった一人の力で無人島から生還した男は有名になった。


「ノーマネー、グッドライフ!!」


インタビューを続ける取材陣に爽やかな笑顔を送った。


男が脱出した貯金箱の無人島は有名になり、

たくさんの観光客がお金を落としてツアーにいくようになった。


しかし、観光客は必ずがっかりして帰ってくる。


「キレイな島だと聞いていたのに嘘じゃないか。

 あれだけ大金はたいてやってきたのに、なにもない。ただの荒れ地だったよ」

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