こどもの領分

梅比良望

泥沼の愛

 君の心のなかに僕の海はある。

 僕が君のなかにつくったのだから、あって当たり前。

 ただ、今の君は僕の君ではない。

 ゆら。

 君の意識は、ここに少しでも残っているのだろうか。


 ――ごめん、聴こえているか。


 ああ、今の君が僕を呼んでいる。

 ゆら。

 今の君は君ではないにしても、君は君だ。

 なぜなら僕は、

 これは恋だ。いや、恋を通り過ぎた愛だ。

 どこまでも堕ちよう。深い海の底へ、君を追って。


 ――おれはよくわからないのだけど、塩気のあるところでも育つハマヒルガオ? がきれいだと小夜さんが言ったらしくって……、ハマヒルガオってわかるか?


 ああもう! どれほど莫迦莫迦しくてもいとおしいんだ! 僕は君が!

 僕は君のなかの海でハマヒルガオを摘んで花束をつくる。そして、君に似ても似つかない今の君に、その花束を渡す。


「いちた、これでいい?」

「あ、ごめん……、ありがとう……」


 ゆら。

 今の君に、僕の君の姿は見えない。

 でも、僕は、君のなかにつくった海にずぶずぶと沈んでいくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る