第349話 大地の修理5
「私も行く!」
「ダメです」
即座に却下すると分かりやすくショックを受けた顔をするコロナ。
先ほどドルンに連絡したときにはどうやらカーゴ内でエルフィリアと一緒だったらしい。その後向こうに残った誰かに聞いたのか、文字通り最短距離を飛んでコロナがやってきていた。
「なんで!」
「戦力が偏りすぎるからだってば」
そもそも二枚看板の一枚であるブレイヴが一時的に抜けるのに、もう一枚落とすのは流石にマズい。
「ならブレイヴさんの代わりに……」
「ん、ダメに決まっておろう。我が見つけたのだから優先権は当然我、だ」
うぐ……と妙に自信満々に語るブレイヴにコロナが一歩後ずさる。
しかしとばかりなおも食い下がろうとする彼女だったが、すかざずブレイヴが右手を出し強制的に動きを止める。
「第一コロナでは力の発生源が分からぬであろう?」
「それは……」
言い淀むあたり図星なのだろう。
何とか言い返そうとするも適切な言葉が出ないようでむーむーと唸るばかりであった。
「ヤマルぅ……」
「そんな顔しても駄目だって。仮にブレイヴさんが譲ってくれてもコロとじゃ一緒に降りられないでしょ」
「担げば出来るよ?」
「安全に降りたいのよ……」
ブレイヴの飛ぶは宙に浮くタイプだがコロナの飛ぶは翔るタイプだ。こんな底が見えない渓谷目掛けジェットコースターのような降り方は正直したくない。
それに何かあった際、近接しか出来ないコロナでは自分を担いだままではまともに戦えないのも理由の一つである。
「でも下で何かあったらどうするの? ブレイヴさんの力が借りれなかったり……」
「まぁ今回は短時間で帰ってくるからブレイヴさんの力を借りるけど、一応時間かけていいなら手段はいくつかあるよ。ポチに頼むのもあるけど他には……」
と、柵の様な板状のものと棒状の物を一つずつ《軽光魔法》で展開。それを渓谷の側面に対し打ち込むと簡易的な階段(一段)の完成である。
「こんな感じでいくつか作れば階段になるしね。強度的に怖いから確かめながらだったり色々あるけど、まぁ時間かけながらでいいなら出来なくはないよ」
それに……とちょいちょいとコロナを手招きし、耳を貸してとジェスチャーをする。
意図をくみ取った彼女がこちらに近づくと、そのまま頭を突き出すような形でこちらに犬耳を差し出してきた。
「(マイにちょっと調査頼まれてね。ブレイヴさんの見張りも本当だけど、そっちも一緒にやらないといけないんだよね)」
「(そうなの?)」
「(ほら、今ロボットが作業してるでしょ? その真下だし色々調べておきたいんだってさ)」
うーん、と多少悩んだそぶりを見せた後、コロナはとりあえずは納得してくれたようだ。
そして彼女の体が離れたのを見計らい代わりにラムダンがこちらへと近づいてくる。
「ヤマル、ちょっと良いか。こっちに一時的に配置するのを俺じゃなくてコロナさんにしようと思うんだ。あの連絡できるやつを持ってる誰かを残しておきたい」
「分かりました。すぐ戻ってくるつもりですがその間はラムダンさんの独断で動かしちゃってください」
「分かった。まぁ連絡自体は取れるから独断で動かすことは無いと思うけどな」
さて、これでしばらくはラムダンが上手く回してくれるだろう。
現状よっぽどの危険はないと思うけど、油断して大けがなんてされたら目も当ててられないし。
「ヤマルよ、それでどうやって下に降りる? 我がヤマルを掴むかそれかおぶさるか?」
「それでもいいですけど互いに両手塞がるのもあれなので今から軽光魔法で背負子作ります。不格好ですみませんがブレイヴさんはそれ背負ってもらえますか?」
「うむ、心得た」
見た目がカッコ悪いから嫌がると思ったけど以外にもブレイヴはすんなりと受け入れてくれた。
ともあれいつ気が変わるか分からないので早々に魔法で背負子を作成。多少調整したところでそれに座り、落ちないように自分の胴体と背負子を魔法で固定する。
……何かあれだなぁ。遊園地のフリーフォールに今から挑む気分だ。
「ヤマル、担ぐぞ」
「はい。お願いします」
まるで自分の重さなど無いかのようにブレイヴが背負子を背負い持ち上げる。そして体が地面から離れ足が宙にプラプラと投げ出されたところで固定部分を最終確認。
流石に緩くてずり落ちたは洒落にならないし……。
「ん、大丈夫です。行きましょう。ポチ、おいで!」
「わんっ!」
ピョンとポチが膝に飛び乗るとそのまま左肩まで駆け上がる。
ポチがしがみついたのを確認し折りたたんでいた"転世界銃"を展開。更には周囲にいくつかの《軽光魔法》を浮かせたら準備完了だ。
「では行ってくる」
「なるべく早く戻るからね。何かあったら連絡して」
やや心配そうにしているコロナ達にそれだけ伝えると、ブレイヴは何の躊躇もなく渓谷の中へ身を投げ出した。
◇
「どんどん暗くなってくるな」
「ですね」
最初自由落下をしたブレイヴをどうにか説得し、現在はゆっくりと下降している。そして彼が言う様に下がるたびに周囲が徐々に暗くなっていた。
そんな中、顔を上に向けると作業中のロボットが見え更にその先には青空がある。昼間だから陽の光が届くかと勘違いしそうになるが、この渓谷はどうやら太陽の軌道とほぼ直角らしく下の方まで照らされないようだ。
恐らく太陽が真上にある僅かな時間であれば見えるのだろうが、今回は急な話だった為すでにその時間は過ぎていた。
「でも今のところ何も変わり映えしませんね」
追加で《
「ヤマルにはそう見えるか」
「へ?」
だがブレイヴには何かが見えているらしい。
再度注意深く見てみるが、やはり自分には何の変哲もない岩肌に見える。
「う~ん……?」
「はっは、まぁ直に分かるだろう。この辺りまで来て我が感じていたものが何なのか、大よそは理解したからな」
まぁブレイヴの様子からあまり危ないものではなさそうだ。気にはなるもののすぐに分かるという事なので今は無事下に降りる方へ意識を注力することにする。
そのまま注意深く周囲を観察していたが特に何も起こらず、程なくして渓谷の底へとたどり着いた。もはや夕闇に近いぐらいの暗さのせいか明かりが無ければ自分の目ではまともに見えない程である。
ブレイヴの足が地面に着いたのを確認し背負子を消し自分の足で地面に降り立つ。やっぱり自らの足で大地を踏む感触は安心できるなぁと内心思ったところでようやく一息つけた。
改めて空を飛ぶ感覚はあまり慣れないと思う。今回で三回目あたりか……単独で飛べる人の感覚はイマイチつかみ取れない。
そんなことを考えていたら背後にいるブレイブから見てみろと声を掛けられた。
「ヤマル、どうやらこれらが我が感じていたものの正体だ」
「え」
これら? どれだろうか。
いくつか明かりを追加し周囲を見てみるが特別な物は何も……いや。
「えぇ……これ、マジですか?」
「うむ、マジだろうな。非常に珍しい光景とも言える。さながら鉱床とでも言うべきかな」
あまりにも視界に当然のように入り込んでいたため気づくのが遅れた。
右を見ても左を見ても、そして足元を見ても分かる見覚えのあるモノ。日本にはなく、この世界に来てから何度も目にしているその名は……。
「魔石……」
ブレイヴが言う様にまさに魔石の鉱床とでも言える光景。
通常魔石は魔物や魔族が内包している物や、精霊石の様に龍脈の吹き出し口で何年もかけて結晶化した物があるのは知っているが……。
「すごい数と大きさ……これ全部ですかね」
「詳しくは調べぬと分からぬが全部と言う訳でも無さそうだ。例えばこの岩のような魔石は本物の岩に魔石のコーティングがされているような感じだな。仮に斬った場合は二層の断面になるだろう」
「それでもこれちょっとした財宝ですよ。持ち帰ったらいくらになるんだろう……」
自分とて冒険者の端くれ。依頼以外で魔石の換金はこれまでに幾度となくやった。
その為ある程度ではあるが金額も予想出来るようになっている。だがこれは……。
「ふむ……? ヤマル、ちょっとこっち来てくれるか?」
ブレイヴは更に何か見つけたのか、暗がりの中臆することなく歩いていく。
彼の背を見失わないように慌てて追いかけると再び驚く光景を目にすることになった。
「……あれ?」
「何も無いな。この辺りが境界か」
たった数分歩いただけで魔石が全くなくなってしまっていた。しかし今来た道を見返すと確かにそちらに魔石は存在している。
念のためという事で反対側にも歩いてみたがそちらも同じように少し歩いただけで魔石が無くなっている。どうやらこの魔石たちは最初に降り立ったあたりを中心に密集しているようだった。
とりあえず魔石がある場所に戻りさてどうしようかと思ったところで通信機から声が入る。
『マスター。通信装置を介しこちらでも観測しましたが大よその理由が分かりました』
「早いね?!」
驚くこちらを特に気にもせず、マイが淡々と目の前の光景について語っていく。
詳細調査をしなければ確定ではないものの、恐らくこの魔石群は丁度真上にある龍脈の断層から漏れた龍脈エネルギーが長年降り注いだ結果なのだろうと。
本来空気中に散布された龍脈エネルギーは大地に還元されまた巡るものなのだが、この場所は降り注ぐ量が通常の何十倍もあった。そのため大地に還元される速度よりもこのように結晶化する速度の方が高く、その結果が目の前の光景なのだと言う。
(精霊石と同じようなものかな)
大地から漏れ出た龍脈エネルギーが長年かけて結晶化した高純度の魔石が精霊石。自分の武器にも使われてるものと同じものが目の前に、とも思ったが、散布範囲が広すぎたせいかそこまで純度は高くなさそうだ。
ただ量が無茶苦茶あるだけで……。
「マイ、ちなみにこれを全部大地に還元したら沈まなくなったりとかは……」
『無理ですね。量はありますがこれらは龍脈の支流から出たものですしそこまでは望めないでしょう』
流石にそこまでは都合よくはいかないようだ。
しかし今後を考えれば魔道具のエネルギーにもなるこれらは放置しておくのはもったいない。仮に大地が沈んだ後でもこの魔石群があれば様々な魔道具の稼働が望める。
何とかして持って帰りたいところだが……。
「量が量だし誰かに頼むか……いや、でもそもそもここまで到達できる人材は限られてるし道具もあまり持ち込めないし……」
うーん、と頭を悩ます中、ちょいちょいと肩をつつかれることに気付く。
見ればブレイヴがいつの間にか隣に立っていた。
「ヤマル、お客さんのようだぞ」
ブレイヴがそう言うや否や。
視線を向けると物陰に潜んでいたであろう大きな何かがこちらへと飛び掛かってきていた。
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