第341話 レイス ≠ レイス
何とか落ち着いたところで二人に自分が知るレイスの話を語る。一応念を押し、二人には以後の事は口外しないようにと約束させた。
何せ今から話すことはレイス本人の話とそれに関わる事……つまり魔族が生み出された経緯も話さなければならないからだ。
これについては話をする前に両名共に了承してくれた。口約束ではあるが少なくともこの二人は簡単に破るようなチャチな真似をする人ではないのは理解している。
そうして自分の知っている内容を話し始めるが、こちらがが知っている情報はマイ経由で教えてもらったことのみ。それこそ歴史書に書かれているような内容だ。
レイスがこちらに来てから何をしたか、過去の記録でどのような意見を述べていたのか。そして没後レイスは襲名制となり弟子に受け継がれる形になっていたこと。
その後四代目の際に当時の戦争が起こり、その結果世界は一度滅びかけ生き残った者達で今の国の形になったこと。
最後に四代目はその際に死亡が確認されていることを告げ話を締めくくった。
「…………」
「…………」
流石に荒唐無稽な話に聞こえたのかもしれない。ウルティナもブレイヴも一言もしゃべらず何かを考えている様だった。
しかしこのレイスに何か気になる事でもあったのだろうか。遥か遠い昔に亡くなった故人であり、ウルティナやブレイヴとは面識どころか接点もないはずだけど……。
「とりあえず以上ですけど……師匠たちもレイスのこと知ってるんですか?」
あ、なんか物凄く不機嫌な顔してる。
何と言うかブレイヴがウルティナを久々に見た時なんかこんな感じの顔をしていた。
「……どうする?」
「話してもいいんじゃないかしら。無関係ではないでしょうし」
そうして語られるウルティナ達が知っているレイスの話。
厄介な魂を操る能力を持ち、間接的に人格を歪めたり場合によっては操る力。そして恐らく此度の前王呪殺の主犯格である人物を操ったであろう人物。
何より二百年前の大戦のきっかけにもなった存在であったそうだ。詳細については省かれたものの、最終的にはそのレイスを目の前の二人が仕留め戦争は終結へと向かったらしい。
ただしレイスの存在は幽霊の様なものでどうやら魂のまま生き延び……生き延びでいいのか? ともかく存在を保ったまま現在もいたようだ。
ただこれについてはウルティナとブレイヴが今回の旅で仕留めて回ったらしい。そんなに逃げ足が速いのかと思ったがどうも分霊のような感じで自身の魂を分けて人々に取り付いていたそうで、一匹一匹しらみつぶしで対処しながら世界を駆け巡っていたようだ。
世界中を回り終えたと言うがその割にはかなり短期間な気もするけど……この二人なら出来るんだろうなぁ。実際出来たから帰ってきたってことなんだろうし。
「でもよくレイスがいるの気付けましたね。この話をしたのって今が初めてなのに……」
「ほら、ヤマル君って前に熊人間のようなのと戦ったことあるでしょ。アレと似たようなのと昔戦ったことあるのよ。それで気付いたってわけ」
「その時は魔物同士だったがな。しかし明らかに歪な存在だったから今でも覚えているぞ」
つまりその共通点があったから……あれ、俺師匠にその話したことあったっけ?
……気にしたら負けか。この人なら知らん間に頭覗かれてたとかもありそうだし。
「えーと、つまり話をまとめると……」
自分とウルティナの話をすり合わせ確認するように時系列順にまとめてみる。
まずは自分が知っていたレイス登場の話。マイ経由で聞いていた話だが、ここにウルティナからの話を加えると少し違った見方になる。
初代レイス死後、その魂は二代目、三代目、そして四代目に乗り移っていた。そしてノアが落ちて以降どの様な経緯を辿ったかは不明だが、二百年前の大戦時に戦争の引き金となった。
三国が争う大戦でありこの時期にウルティナが召喚される。ブレイヴらを含む魔国や獣亜連合国と戦うこととなったが、最終的にはレイスを目の前の両名が倒したことで終戦へと向かった。
「ってとこですかね?」
「まぁ端折ってるけど大体そんな感じね」
まとめた内容にウルティナが肯定の意を示す。
となると次に気になるのは……。
「何でそんなことしたんでしょうね?」
単純な動機。もちろん本人では無い為推察するしかない。
「さぁな。前の時はその話をせずに仕留めたからな。これ以上のさばらせる訳にはいかなかったのだ」
「今回も無駄に数増やしてたから逃げられる前にやっちゃったのよね。殆どの魂は回収したと思うけど、生き残りがいるならその辺りの情報は欲しいところではあるわね。何せ今後の対策にもなるでしょうし」
自分からすればレイスは獣人達を作ったちょっとマッドな天才学者のイメージ。しかしウルティナ達からすれば世界を混沌に陥れた大悪党だ。
何か二つのイメージが繋がらないなと思っていると自分とウルティナの中間地点、丁度テーブルの上に見知った姿が不意に浮かび上がる。
『少々宜しいでしょうか』
それは手乗り妖精サイズになったマイの姿。正確にはマイのホログラムだ。
どうやら自分の通信機から出力しているらしい。
「あら、あなたが神様のマイだったかしら」
『神と名乗るつもりはありませんが崇められているのは知っています。貴方がマスターの師であるウルティナ様ですね。そしてそちらがブレイヴ様』
「うむ」
双方ともに軽い自己紹介を交わし改めて何故マイが出てきたのかを問う。
すると今の会話の中で彼女にとって引っかかる部分があるとのことだった。
『先ほどからお話を聞かせていただいてましたが、私が知るレイスとお二人が知るレイスが同一人物と言う前提で話されてます。私はレイスがその様な特別な力を持っているなど聞いたことありませんし、全て憶測ではないでしょうか』
「あら、あなたはレイスの肩を持つのね?」
『少なくとも私の知るレイスは多少の問題はありましたが人に害をなすようなことは行っていません。同姓同名の別人の可能性は十分に考えられます』
「異世界人は特殊な能力を持った人も多いけど」
ねぇ?と同意を求めるようにウルティナがこちらを見てくるが、特殊な能力が一つもない自分にそれを求められても……。
「まぁ知ってる限りではそうですね」
だけど自分と一緒のタイミングでこの世界に呼ばれた救世主組は全員何らかの特殊な能力、もしくは特筆すべき技術を持っている。
真実を視る目に勇者や聖女としての能力、人並み以上に武芸や舞踊を身に着けた人等言い出したらきりがない。目の前にいる人だって昔の人が成し得なかった人が魔法を使えるようにした人だ。
『しかしそれだけではレイスが魂を操ると言う突飛な能力を持っていたと言うには乏しいです。少なくとも彼には遺伝子工学の頭脳がありましたのでそちらが特別な技能と見て良いのではないですか』
ブレイブがいでんしこうがく?と聞き慣れない言葉に首を傾げていたので、彼に軽く内容の説明をしておく。
しかしマイが言っている事も筋が通る。正直ウルティナ達に話を聞くまでは自分もレイスの能力はその頭脳であると思っていた。この世界の科学技術ですら成し得なかった遺伝子工学の知識や技術は十分特別な能力に入るからだ。
「平行線かしらね」
『そうですね。そちらの言う可能性、こちらの言う可能性両方ありますから』
「師匠、別に同一人物と見做さなくてもいいのでは? 昔がどうあれ今の時代で悪いことしてるならそのレイスをどうにかすることに変わりはないんですし」
「さっきも言ったけどアイツの情報が多ければ対策しやすいのよ。ヤマル君が言ったレイスと私たちの知ってるレイスが同一人物なら今まで以上に警戒が必要になるわね」
「……師匠ぐらいの人でも、ですか」
「癪だけどあたしとコイツの目を盗んで今の今まで潜伏してたのよ。それに遥か昔から続いているのだとしたらもはや執念どころか妄執の域ね。目的の為に何でもやるでしょうけど、こういう手合いはその分目的がはっきりしてるものよ」
何でもやる、か。
実際同じ人だとしたら獣人や亜人・魔族を作り出したり、戦争を引き起こしキメラの様な合成魔物を産み出したのもその目的のため。
更に言えば自分がこの世界に呼ばれる直接的な原因となった人物を操った黒幕と言うことになる。
……マイのいた時代から今現在に至るまで、それこそ長寿種ですら遥かに凌駕する期間。それを越えてなおレイスが求める目的、かぁ。
「ちなみにそっちが持ってるレイスの情報はもらえたりするのかしら?」
『マスターのご用命があらば。ですが確証がない以上は私自身としては反対です。彼により救われた時代があったのは紛れもない事実ですから』
「悲劇を引き起こしたのも事実でしょうけどね。まぁここでその事を話しても水掛け論ね。そこでちょっと質問をさせてもらいたいけどいいかしら」
『レイスのことでしたらマスターの許可がない以上は開示できませんが』
「その辺は別にヤマル君に頼んでも良いけどそれはスマートじゃないもの。あ、別に質問に対して答えを言わなくても良いわよ」
どういうことですか、とマイがウルティナに問うが、彼女はしてやったりとばかりの表情で更に話を続ける。
「あたしは同一人物と睨んでる。だから今から言う私の質問であなたに同一人物と思わせることにするわ。さっきも言った通り質問の答えは私に言わなくていいけど、あなたの中で出た答えから同じ人物かどうか考えてみなさい」
『……いいでしょう。ですが根拠が乏しければ認めませんよ』
そうしてマイがウルティナと向き合うように体をそちらへと向ける。
「まず確認だけど初代レイスは弟子が何人もいた。襲名制になってたってヤマル君は言ってたから多分そうよね?」
『それが質問ですか?』
「ただの前提の確認よ。正しく質問をするには双方の情報に齟齬があるのはマズいでしょ?」
『分かりました。その前提ですが合っています。レイスには弟子が複数名おり、その中の一人が名前を継いだ形になります。これは以降の二代目や三代目も同様です』
「じゃあそれを踏まえた上で最初の質問。"レイスが指名した弟子は当時一番優秀な弟子だった?"」
その質問の意図が自分には今一つ分からない。
そして人ではないマイの表情は特に変化は……いやまぁ今のマイは人型だけど顔は目があるぐらいだから変化はそもそもないんだけど、傍目には何を考えているのかは分からなかった。
「次の質問ね。"歴代のレイスは襲名後は人が変わったような性格にならなかったかしら。あるいは先代レイスしか知らないような知識、言動、口癖などは無かった?"」
『…………』
これについてもマイは特に語らず。回答しないで良いと言われ自分からの指示も無い為当然と言えば当然。
しかし彼女はウルティナの質問に対し今何を思っているのだろう。人であれば心が揺れ動くとかその様な状態なのだろうか。
「後は……そうね。ヤマル君、ちょっと――」
「すいません、お待たせしました。お茶淹れてきましたので……」
コンコンとノックの後ティーセットを持ったエルフィリアが入ってきた。
それを見たウルティナが待ってましたとばかりに嬉しそうな表情へと変わる。
「エルちゃん!」
「え、あの、すいません。茶葉が無かったのでちょっと買いに行ってまして……」
「ううん、グッドタイミングよ! ささ、ちょっとこっちに座ってくれる?」
え、え、と困惑するエルフィリアがあれよあれよと言う間にウルティナがいた椅子に座らされる。
なお持ってたティーセットは当然のように自分に渡されたので、一旦部屋の隅へと置きに行くことにした。
そして元の席へと戻るとウルティナがどこからともなく紙とペンを取り出しそれをエルフィリアの前へと置いているところだった。
「エルちゃん、ちょっと似顔絵描いてくれる?」
「似顔絵……ですか?」
何をさせるつもりなのだろうとそのまま聞いていたが、どうやらレイスの似顔絵を描かせるようだ。
彼女はエルフゆえか、それとも単に個人の資質かは分からないが絵心がある。何かを描かせるのであれば適役だろう。
「私の知ってる方ですか?」
「ううん、知らない人よ。だからあたしが顔の特徴を言うからその通りに描いてほしいの」
「……えっと」
何かエルフィリアがこちらにどうしましょうと言いたげな目線を送ってきているが、軽く目を伏せ諦めてとジェスチャーを返す。
「描き直ししてもいいなら……」
「もちろん。紙はまだあるから大丈夫よー。……さぁ、マイ。これが最後の質問よ」
あー、何か
「"今から見せる絵の人物をあなたが知っているかどうか"。以上三つが私からの質問よ」
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