第342話 レイス ≒ レイス
『それでは情報を開示します』
そう言ってマイはウルティナに必要な情報を表示していく。
あの後、エルフィリアはウルティナの指示に従い一枚の似顔絵を描き上げた。完成した絵は彼女やブレイヴから『とてもよく似ている』と太鼓判を貰えるほどの出来栄えだった。
実際自分もその絵を見せて貰ったが、そこには確かに初代レイスの顔が描かれていた。
何でその顔を知っていたのかと聞いたところ、どうやら二百年前にレイスを吹き飛ばしたときに魂の形が人型でこんな顔をしていたらしい。
恐らく魂の形状は大元である体の形状に引っ張られるのだろう。それも最盛期と思える時期の。
遥か昔に亡くなった初代レイスの顔をウルティナが知る術はない。現在それを知っているのはマイと当時の映像を見た自分だけ。
それが同一人物であると認めさせる決定打だったのだろう。ウルティナが投げかけた二つの質問はマイに疑問を浮かばせ、とどめとばかりに似顔絵を見たことで総合的に同一人物と判断を下させた。
なおエルフィリアは似顔絵を描き終えた後に退室してもらっている。ちょっとここからの話は彼女にはあまり聞かせられないからだ。
『開示内容はあくまでレイス個人としての言動や映像、文献や日記等です。その為技術的な物につきましては制限をかけさせていただきます』
「それで良いわよー。今は具体的にその辺の資料渡されても良く分かんないだろうし」
今は、と言うあたりその内この人もそっちの知識に手を出しそうだなぁ。
……何か数百年後、ウルティナクローンが世界にあふれてないか不安になってきたので早々にこの考えを頭から追い出すことにした。
「さてさて、そういう訳で悪いんだけど私たちは今から調べものタイムよ」
「あんまりマイに無茶言わないでくださいね。……あ、その前にちょっといいですか。自分からも師匠に相談したい事あったんですけど」
「……ヤマル、大丈夫か? こいつに相談は人生を差し出すと同義だぞぉぅふ?!」
あ、何か椅子ごとブレイヴが吹っ飛んだ。
いつも通りの光景とは言え二人で世界巡ってる間もこんな感じだったのだろうか。方々で迷惑掛けてないといいけど……。
「可愛い弟子の悩みを聞くのは師匠の務めってぐらいマー君に言われなくても分かっているわよ」
言ってる事はとても良い事なんだけどイマイチ信用しきれないのはブレイヴが忠告したからか、はたまた今までの行いのせいか。
ただ今回は流石に事が事なだけにウルティナの協力は是が非でも得なければならない。
「で、相談って?」
「えーと、世界崩壊の阻止……ですかね」
「ならば我も協力しようではないか!!」
吹っ飛ばされ床で寝ていたはずのブレイヴがいつの間にか自分の隣に立っていた。しかもこちらの肩に手を置きとてもいい笑顔を浮かべている。
「ふふ、良いぞ。世界崩壊の危機を救う勇者一行……これぞ我が待ち望んだシチュエーション!」
「あんま望むのもどうかと思うけど……」
「まぁそいつはほっといて実際のところどういう事? ヤマル君はこの手の冗談は言わないわよね」
流石にこちらの雰囲気から何かを察したのか、茶化すことなくウルティナが相談内容を促してきた。
こうしてちゃんと真面目にしていれば美人でミステリアスな人なのになぁと思いつつも、こちらも茶化すことなくその内容を告げることにする。
「えーと、そうですね。切っ掛け自体は自分達が一気に呼ばれたせいなんですが……マイ、ちょっと龍脈の資料見せて貰える?」
『了解しました』
そうして始まる龍脈講習。自分がまず概要を話し、補足説明とウルティナからの質問対応をマイが担当する。
流石地頭が良い彼女はすぐさま内容を吸収し一通り聞き終える頃には大体の事は分かったと言っていた。
「とりあえず期間はまだあるので早急にではないんですがあまり悠長にしてもいられないんですよね。こっちの方で最悪想定して人王国側に避難計画を進言しましたが、大元の龍脈の枯渇をどうにかできればそれも必要なくなりますし」
「なるほどねー、それであたしなのね。召喚の改造を昔やったから何かないかと」
「はい」
元々異世界からの召喚はレイスの時同様に命を対価に行う手法だった。
しかしウルティナが召喚され調査された結果、命ではなく膨大な魔力が詰まった召喚石で代用する手法へと切り替わっている。
彼女自身技術的な部分、すなわち"異世界から他者を呼ぶ"と言う部分はさっぱり分からなかったが、対価として周囲の命を吸う部分に手を加える事には成功している。
そして現状技術的な部分が分かっているマイがこの場にいる。何かしら発展すれば良いけど……。
「そうねぇ……話を聞く限り単純な解決策なら、その枯渇した龍脈のエネルギーを元に戻せばいいってことよね」
「そうですね。減ってるからこその崩壊の危機ですし……」
「そうなるとそもそも"龍脈エネルギーって何?"から始めないといけないわよねー」
「確か星を巡る力とかそう言うのだったような」
しかしそれは違うとばかりにウルティナは人差し指を立て軽く左右へと振る。それもチッチッチと分かりやすい言葉つきでだ。
「そんなふわっとした情報じゃなくて本質の方よ。龍脈の正体とでも言えば良いかしらね。それが分かればエネルギーそのものを作れたり、代替の何かが見つかるかもしれないでしょう?」
なるほど、確かに龍脈の代替エネルギーがあればそちらを使えば良いのは理に適っている。現状膨大な量が喪失されている状態なのだから、もし龍脈エネルギーを消費しない手法があるなら率先して使うべきだろう。
一応龍脈エネルギー自体は時間経過で自然回復しているがそれでは崩壊のタイムリミットまで間に合わない。しかし何かしらの手法で間に合わせることが出来るのならそれで一時的にしのげばいい。
「そうですね。となるとやれることは……」
「あー、大丈夫よ。とりあえず取っ掛かりはあたしでやっておくから。手伝うことあればこっちから指示だすからね」
「……いいんですか? もちろんありがたいんですけどかなりおんぶにだっこなような」
協力要請を出した以上何かしないと丸投げな感じがして罪悪感がどうしても湧いてきてしまう。
しかしウルティナは問題無いとばかりに軽い感じで手を横に振るだけだ。
「適材適所ってやつよ。必要なときは問答無用でしょっ引くから」
「……お手柔らかにお願いしますよ?」
まぁ手を出さない方が良い場合も世の中には多々あるし、ここは素直に彼女の好意に甘えておくことにしよう。
「あ、一個だけ良いかしら。多分近い内に"召喚の間"を再調査するからあの子から許可取っておいてねー」
「あ、はい。分かりました。レーヌには連絡しておきますね」
「よろしくね。あの子ヤマル君の事なら何でも聞きそうだしねー」
流石にそんなことは無いと思うけど……分別ある子だよ、うん。
「じゃ私たちはレイスと龍脈の件調べるからちょっと籠るわね。ご飯の時間になったら教えてねー」
「了解しました。それではよろしくお願いしますね」
◇
ヤマルが部屋から去りその足音が聞こえなくなってからはぁ、と一つため息をこぼす。
「なんだ、お前がため息をするなど珍しいではないか」
「まぁレイスの方がある程度片付いたなーって思ってたところだからね。……マー君はどうするの? 魔国の問題にもなるでしょ」
現在
そんな人物がふむ、と一応とばかりに考える素振りをするも、出てきた答えは当然とも言えることだった。
「少なくとも現状では我は干渉はせん。だが最悪を想定するのであれば先陣に立つしかなかろう」
「まぁそうでしょうねぇ……」
最悪の想定とは言うまでも無く
無論現在その兆候は微塵もない。良好と言えるかは分からないが、少なくとも国家間で争いが起きるようなことは何一つない。
だがその争いの火種はすでに水面下で撒かれている。
「獣亜連合国と避難民を割り振ったとしても当然限度はある。ヤマルの言ったことが本当に起こり、その被害が想定通りの場合どれほどの流入があるか分かったものでは無いからな」
「ぶっちゃけたところ魔国に大量の避難民を受け入れる余裕は無いの?」
「細かいところはミーシャに聞かねば分からんが一時的ならば可能であろう。人道的な部分もあるしな。しかし恒久的な話ともなれば必ずもめる。領土や土地の問題から食料や資材関連など言い出せばきりがない」
実際のところ未開を開拓しそこに住まわせる方法がないわけではない。魔物など危険な生物が蔓延ってはいるが、今までも人間はそこを切り拓き生活圏を広げてきたのだ。
だが獣亜連合国や魔国からすれば今回の件については道理が通らない。
人王国の半分以上が沈む。国民が住む場所が物理的になくなる為避難なり移住なりさせてほしい。
なるほど、確かに人道的な面からすれば手を差し伸べる案件だろう。困っている人を見過ごすような判断を双方ともするほど非情ではない。
……これがただの自然災害であれば、だが。
当人らが知らなかったとは言えその崩壊のトリガーを引いたのは他ならぬ人王国だ。同情的な部分はあるかもしれないが人災ともなればそちらで何とかするべき話になってくる。
しかし国民全員を残った国土で生活させるのは難しく、移住や避難が出来ないともなれば人王国は二つの選択を迫られる。
つまり自国民を切るか、生かすために侵略戦争を起こすか。
もちろんこれは最悪の想定だ。しかし起こり得ない未来ではない。
(うーん、一応平和になった以上そのままでいて欲しいけど……)
実際のところ自分自身それほど正義感が高いとは思ってない。ただそれなりに苦労して戦争を終わらせた以上、また引っ掻き回されるよりは事前に何とかしたいとは思う。
それに……。
(まぁ少しは責任感じてはいるしね)
十連召喚の選択肢を教えたのは紛れもなく自分だ。
これが無ければ連続で使用されない限り、それこそ一人や二人程度呼ぶぐらいであれば影響は無かっただろう。龍脈エネルギーが枯渇したのは紛れもなく同時召喚が原因である。
間接的とは言え自身の行いが一因になっているのであれば無視をするわけにはいかなかった。面倒なものは極力避けるが、自ら関与したことを投げ出すのはプライドが許さない。
「どうしたもんかしらねぇ……」
「まぁなるようにしかなるまいて」
確かにそうなのだが気にしている部分はそこではない。
検証と実地確認をしなければならないが、実は龍脈エネルギーに関しては大よそのあたりはついている。そして考えた通りであれば枯渇した分の回復も行えるだろう。
ただその場合懸念点が一つ。
(ヤマル君、帰れなくなるかもしれないわね)
あちらを立てばこちらが立たずとはよく言ったもの。
だがこれまでその様な選択肢は全て総取りを選んできた自分が二者択一に悩むなどらしくないと感じてしまう。
「ままならないものね」
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