出張1日目(木曜日)

 プルルルルルルルル

 プルルルルルルルル


 ……ん、なんだ。何か鳴っている。

 電話の音……そうか、モーニングコールだ。

 私は枕に顔を埋めたまま、手だけで受話器を探す。


 バン……バンバン……ガシャ


 これだ。

 掴んだ受話器を耳にあてる。


「ああ、起こしてくれてありがとう」


 電話越しの相手に礼を言う。が、相手からは何も返ってこない。

 モーニングコールを利用したのは初めてだが、ただコール音を鳴らすだけなのだろうか? こう、女性が「おはようございます」など言ってくれるものだとばかり思っていたが。

 不思議に思いながらも受話器を耳から離そうとしたときだった。


『……あさだぞ』


 ん、なんか聞こえたな。

 離そうとした受話器を耳に押し当てる。


『あさだぞ。起きたか。ちゃんと起こしたからな。じゃあボクは寝るからな。じゃあな』


 ブツッ

 ツーツーツー


 ……なんだ。

 なんだ今のは!! ふざけているのか!!

 モーニングコール!? ああ最高だ!! 一気に目が覚めた!!


 私は怒りのままにクローゼットの中から引っ張り出した浴衣を着用して、フロントに向かった。


「おい! 誰かいないのか!」


 フロントの奥から慌ててスタッフが飛び出してくる。


「如何なされましたか?」

「イカガもナニもあるか! なんだあのモーニングコールは!?」

「モーニングコールがどうかなさいましたか?」

「ふざけすぎているだろう! 何が『あさだぞ』だ! 起こす気はあるのか!? ああいや、お蔭で私はしっかりと目が覚めたな! これがそちらの狙いなら最高の起こし方だ! 感謝する!!」

「あの、何のことをおっしゃっているのかさっぱり……」

「くそっ、あくまでとぼける気か……む、そろそろ時間がまずいな。いいな、明日こそはちゃんとしたモーニングコールをするんだぞ」

「はあ……」


 私は急いで部屋に戻ってシャワーを浴びて、出張先の工場へ向かった。


 * * *


 一日の仕事を終えて、近くでラーメンを食べてからホテルに戻ってきた。

 急な出張だったが、なんとか順調に終わりそうで安心した。

 シャワーを浴びて、歯を磨き、昨日と同じように電話機のボタンで "#1370700" を押す。


『モーニングコールの 予約が 完了しました』


 明日こそちゃんとしたモーニングコールがかかってくることを期待して、私はベッドに入った。

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