モーニングコール

キム

出張0日目(水曜日)


 くそっ、どうして私がこんなことをしなければならないのだ。

 あの、体調管理もろくにできない馬鹿な部下が風邪で休まなければ、こんな平日のど真ん中から出張に来ることなんてなかったのだ。

 部長も部長だ。何が「どうせ休日の予定なんてないんだろ? 行ってきてくれたまえ」だハゲが。私にだって予定ぐらいあるわボケ。


 止まらぬ愚痴を心の中で念じつつ、今日からしばらく世話になるビジネスホテルに着いた。

 中に入り、フロントにいるスタッフに声を掛ける。


「予約していた鈴木勇だ」

「はい。スズキイサム様ですね。少々お待ちくださいませ」


 スタッフがパソコンを操作し、予約の確認をする。


「本日水曜日から来週の月曜日までのご利用でよろしいでしょうか?」

「ああ」

「はい、ありがとうございます。部屋は731号室でございます。こちらがカードキーになります。部屋はオートロックですので、部屋を出る際にはカードキーをお持ちになってください。また、外出される際にはカードキーをフロントにいる者にお渡しください。7階へは右手にございますエレベーターをご利用くださいませ。朝食のバイキングは」

「ああいらん。私は朝食は取らないんだ」

「かしこまりました。それでは、ごゆっくり」


 カードキーを受け取り、エレベーターで7階へ向かう。

 部屋に着くと、なんとも殺風景な部屋にシングルベッドが置いてあった。ビジネスホテルだからこんなものか。

 ネクタイをゆるめ、スーツを脱ぎ、下着姿になる。

 いきなりの出張でどたばたしてしまったので、今日はもう何もする気になれなかった。

 気晴らしにテレビを付けてみたが、何も頭に入ってこなかった。

 今日はもう寝るか。

 ベッド横の明かりを消そうとしたときに、電話機のそばの張り紙が目に入った。


『モーニングコールのご予約方法:#137を押したあとに 4ケタの時刻を入力してください(存在しない時刻の場合は無効となります)』


 モーニングコール。

 今までホテルは何度か利用したことがあったが、モーニングコールを利用したことはなかったな。

 ここで目に入ったのも何かの縁だ。頼んでみるか。

 私は電話機のボタンで "#1370700" を押す。


『モーニングコールの 予約が 完了しました』


 予約完了のメッセージが流れてきた。

 よし、これで明日の朝はしっかりと起きられるだろう。

 私は今度こそベッド横の電気を消灯して、眠りについた。

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