グリモアエンジンの永遠なる駆動
なかいでけい
2017年5月21日(日曜日)
東海道線が川崎―品川間での魔力暴走によってダイヤ乱れを起こしていた。
僕は先日覚えたばかりの転移魔法でもって、目的地の品川まで転移してしまおうかと思った。しかし、ポケットの中の魔力計を見ると、今日の僕の魔力は転移魔法1回で全て使いきってしまいそうだったので、やっぱり止めておくことにした。
昨日から世間ではなにかと事故が多く、そういうものに巻き込まれたときのために魔力は常に温存しておいたほうが良いと思ったのだ。
結局、僕は坂本先輩との待ち合わせに10分ほど遅れて到着した。
待ち合わせ場所で沢山の人影の中から、小柄な坂本先輩の姿を見つけるのに苦労していると、突然背後から肩を叩かれた。
振り返ると、そこには鋭い瞳で僕を見上げている坂本先輩が立っていた。そうして坂本先輩は、路地裏にある自動販売機を指さした。
促されるまま、薄暗い自動販売機の裏へやってきた。しかし、ここに何があるというのだろうか。坂本先輩はしきりに周囲の様子を警戒している。
僕は自販機の裏で、女性が今にも体がくっつきそうなほど近くにいる、というシチュエーションに妙にドキドキし始めていた。
「せ、先輩。ぼ、僕になにか、その、僕に見せたいものって、なんなんですか……」
どうやら僕のドキドキは露骨に表情と態度に出ていたようで、先輩は面倒くさそうな顔で僕を睨み付けると、背後に転送用の魔法門を開いた。
「ほら、そこに入って。早く」
僕はいきなり魔法門を開いてみせた先輩に驚きつつも、言われたとおり魔法門をくぐった。
転送先は坂本先輩が1人暮らししているアパートの玄関の中だった。
ふり返ると、すぐ後で魔法門をくぐった坂本先輩が門を閉じているところだった。
短い距離を移動するためだとしても、複数人の転移が可能な魔法門を開くために必要とする魔力は膨大だ。
僕が知っている坂本先輩は生まれつき魔法の唱えるのに必要な魔力が少なく、極力魔法に頼らずに生活する
その坂本先輩が、魔法門なんかを開いたりなど出来るはずはないのだが。
坂本先輩はそんな僕の驚きをよそに、家の奥へと入っていった。
「とりあえず、そこに座って」
そう促されて、僕はクッションのひとつに腰を下ろした。
僕が腰を下ろしたタイミングで、丁度先輩の背後に貼られていたカレンダーが剥がれ、跳ね上がった画鋲が奇跡の軌道を描いて坂本先輩の脳天に突き刺さった。
「いてて」
坂本先輩は頭をさすりながら、恨めしそうな顔で落っこちた画鋲を拾い上げると、ポスターを元に戻した。
「それで先輩、僕に見せたいモノって、なんなんですか」
僕が尋ねると、坂本先輩は「うむ」と頷いて染みだらけのふすまを開けた。
「見せたかったのは、これだ」
そうして、坂本先輩は奥から炊飯器ほどの大きさの、なにか無闇にゴテゴテとした機械的装飾のついた装置を引っ張りだしてきた。
坂本先輩は、まるでこの装置を見ればひと目でコレが何か分かるだろう、というような雰囲気で装置を僕の前に突き出している。しかし、僕はこの、パイプやらケーブルやらが、いわくありげに自分自身の何処かのパーツと何処かのパーツとを繋ぎあっている、見たこともないヘンテコな機械じみた機械が何なのかさっぱり分からなかった。
だから僕は聞いた。
「先輩。コレは何ですか」
すると先輩は答えた。
「これはグリモアエンジン。無限の魔力を生み出す、夢の装置。昨日、完成したんだ」
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