第7章 父娘の再会

7-1—兄弟の再会—

 時子と悠紀人が夕飯を食べていた頃、笙は仕事帰りに圭の病室を訪れていた。兄弟での久しぶりの再会を果たした後、それぞれの近況や今までの経緯などを互いに話した。


「珠樹と時子と一緒に暮らしてくれているんだってな。俺が何もできなかった分をありがとう」

「一緒に暮らし始めたっていってもここ一年ちょっとのことで、それまでは珠樹が看護師として働きながら女手一つで時子ちゃんのことはしっかり育てたんだよ。立派なもんさ。俺と一緒に暮らすようになったのは離婚して俺が一人だったから、その方がお互いのためにもいいってことになっただけだよ。ただ、珠樹と時子ちゃんのためには兄貴がいいなら離婚した方が世間体がとれると思う。まあ、兄貴が行方不明になって長いから誰も何も言わないけど、気にする人は気にするし、世間体が悪いからね」

「そう。俺も親父のことが気になっていて……。よく許してくれたな」

「許すも何も、珠樹は看護師としての評判がいいし、時子ちゃんに罪はないだろ。それに俺は離婚したから、今のところは行方不明になった兄のお嫁さんと娘の面倒を見ているってことになってるけどさ。もう、こうして会えたんだし、兄貴は行方不明ではないからさ」

「そうそう、それで、実はさっき珠樹の休憩時間に離婚届を取ってきてもらってお互い、サインしたところなんだ。明日にでも珠樹に役所に提出してきてもらうことにした」

「そうか、兄貴もつくづく辛い立場だよな」

「まあ、確かに辛い立場ではあるけど、時子とは近々会えることになってるし、珠樹も案外さっぱりした性格だからね」

「珠樹は昔から父親のことで苦労しているからね。さっぱりした感じで振る舞ってるけど、兄貴と再会できて心の中は複雑な思いもあったりするんだろうけど、それにも増してきっと嬉しいんだろうな。それにしても名札が時田春彦になってるのにはびっくりしたよ」

「救急で運ばれたからね。まあ、一種の芸名というかペンネームというか、仕事上では今はその名前で通っているよ」

「兄貴も交通事故ってことだけど、記憶もしっかりしていてよかった。こうして会えたんだし、応援するから、ここでしっかり休養とって早く元気になれよ」


 笙と圭がそんな話をしているところに帰り支度をした珠樹が病室に入ってきた。

「今日はいろいろあって、遅くなっちゃったけど、時子と悠紀人さん、ふたりで待ってるはずだからそろそろ帰ろうか」

「そうそう、今日はふたりで夕飯食べるって言ってたけど、大丈夫かな?」

「大丈夫よ。時子は私とのふたり暮らしが長いから留守番にも慣れてるし、簡単なお料理ならさっさと作れるのよ」

「笙君、さっそくお見舞いに来てくれてありがとうね」

「あたりまえだろ、行方不明になってた兄貴のことなんだから」

「圭も笙君が来てくれてこれで一安心よね」

「なんか、つくづく情けない兄貴だけどな。珠樹とも離婚することになったこと、今、伝えておいたよ。離婚届のこともよろしくな」

「うん。残念だけど、笙君とのこと不倫とか言われたら私も時子も困るから、さっさと提出しておくね」

「じゃあ、そろそろ帰ろうか。兄貴、また来るから」

「ああ、俺はここでしばらくのんびりしてるから、都合がいい時にでもまた顔出せよな。待ってるよ。珠樹もまた明日な」


ベッドの上の圭に見送られて珠樹と笙はふたりで病室を出た。

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