1-4―孤高のナルシスト―
その風貌とは裏腹にざっくばらんで気さくな態度で周囲に接する笙に対して珠樹ははじめの頃は反感の思いの方が強かった。学生服の下に派手なTシャツを着込んできたり、クラスの女生徒を呼ぶときにあの子とかあの人といった風に代名詞を使って名字や名前を敢えて使わないところなど、美男でもてることを鼻にかけ威張っている感が強かった。授業中なのに人の関心をひくようなことを言って周囲を笑わせ、授業の担当教諭から注意されるなど、不真面目かつ不謹慎な態度を突拍子もなく取ることもあった。
しかし、母親を亡くしたいきさつをグループの友人たちから聞いてからは笙の行動に対して珠樹は引き寄せられるような思いの方がだんだんと強くなっていった。珠樹の父が別居中で不在だったことも笙に惹かれる思いに漠然と起因していたかもしれない。母親を亡くした笙と父親と別居している珠樹―それぞれ事情は違うが片親がいないという辛い現実を背負って生きていることに淡い仲間意識のような思いが生じ、その思いが珠樹の心の中でだんだんと強くなっていった。
高校受験を控えているとはいえ、中三という多感な時期に恋の噂はオープンにしろ、プラトニックにしろ、いろいろなところで囁かれ、帰り道を共にするカップルも見受けられた。珠樹を囲むグループ内でもそれぞれの異性への秘めた思いを少しずつ打ち明けあったりするようになっていった。
学年でもトップクラスでおっとりとした雰囲気の才女、
美咲が思いを寄せていた
心の中で笙へのプラトニックな思いが募るにつれて、珠樹は美咲が野仲に対して抱え込んでいた切ない恋慕に改めて共感するような感覚も伴い、手紙に向かって筆を持つ手が一気に走るような日もあった。
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