柔らかな刻
中澤京華
前編
第1章 希望の光
1-1―悲しみの筵
―妹の目の障害のことが父を家から遠ざけた一因であったことを珠樹はうすうす感じていた。
盲目の妹を見る時の父の嫌悪と侮蔑に満ちた失望の翳りが浮かんだ目つきが痛烈に心に刺さり、珠樹はいつからか心痛を抱えるようになっていた。その冷たい視線は珠樹に向けられる温かく穏やかな眼差しからは想像もつかないような冷酷さを放って盲目の妹に向けられていた。珠樹にとって、父がいなくなってしまったことによる寂しさという感情より安堵の気持ちの方が大きくなってしまったのは、妹のことで父母が諍いを起こしている現場を隠れ見てしまったときから、珠樹自身の内観に父に対する疑念が生じてしまっていたからかもしれない。昔のことを思い返せば、突然、借金取りが家に押し掛けてきたこともあった。父がいなくなったことでそんなややこしい騒動からいつの間にか解放されるようになり、家族でほっとできる時間が作れるようになったといっても過言ではなかった。
しかし、その一方で、突然前ぶれもなく襲ってくる酷い偏頭痛にも珠樹は悩まされるようになっていった。近くの病院で診察してもらったところ、自律神経失調症と診断された。心身共々できるだけ穏やかに毎日を過ごすようにと医師からは伝えられたが、母も毎日忙しく仕事に出かけていたため、家の中の細々とした用事を母が帰ってくるまでにほどほどに終わらせておくことも珠樹の日課だったし、盲目の妹、彩菜と過ごすひとときも大切にしたいと珠樹は思っていた。
そんな折り、珠樹は当時通っていた中学校で所属していたテニス部の友人たちからの無言のいじめにも遭った。今迄親しく話していた友人を筆頭に自分を避けはじめた部員たちの冷ややかな視線と嘲笑の
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