第13話 ぱにゃぱにゃふぃーばー
「とまあ、すぐに何かが起こりそうで起こらない謎の日々が続くわけだが」
折角決意とかしたくせになんだか何も起こらなくて、そのくせ、アリスとメイは俺のクラスに居座り続けていて、平和なような異常なような、そんな妙な日々が続いていた。
「そして俺の左腕は弾け飛んで、学校内では何故かもやしが生えたことになっている」
流石理事長ですね!
アイツに殺される前に俺がアイツを殺す。絶対に殺す。
「あら。なんだか物騒なことを考えているみたいね」
「お前は心でも読めるのか」
音もなく背後から声が聞こえてきたので俺は内心ひどく驚いた。教室の中では俺に話しかけるやつなんていないからなおさらだ。
「心は読めないわ。とくにあなたみたいな粗品は特に」
「オイオイオイ。俺は脱ぐと意外とすごかったりするかもしれないのかもしれないんだぜ?」
「ただ、心臓の音を聞き分けているだけよ」
「華麗に無視ですか、有栖川アリス」
「フルネームで呼ばないで! ほら、蕁麻疹が止まらないじゃない!」
「本気で嫌がってんじゃねえよ! 吸血鬼が蕁麻疹とか、どれだけ拒絶反応起こしてるんだよ!」
そんなに嫌なの!? ねえ!?
「志村くんのは小さいから大丈夫だよっ!」
「ふぁっ!?」
こんな発言をするのは一人しかいないけれど、咄嗟のカミングアウトに俺は頭が真っ白だ。
「志村。うしろうしろ」
俺はアリスの言葉に従い、後ろを見る。そこには少しは痣が回復してきた笹森がいた。
「笹森パンダ」
「やめてよぉっ。フルネームで呼ばないでっ。鼻から豆がでちゃったよっ!」
「出るか! 出るのは鼻くそだ!」
「でも、私、志村くんの鼻くそ、毎日掃除してるのに」
「あり得ないわね。手足が痙攣し始めたわ」
「ガチで痙攣してんじゃねえよ! というか、嘘ですよね! 笹森さん!?」
「香ばしい一日分の鼻くそがなんともいえないんだっ。えへへっ」
「それわかるぞ! メイちゃんもアリス様の鼻くそ大好き!」
「お前な――!」
「あなたね――」
俺とアリスはタイミングよく笹森とメイを蹴り飛ばす。
二人が嬉しそうな顔をしていたのは見なかったことにしよう。
「なあ、アリス。俺らの鼻って……」
「それ以上は言わないで。野グソ。なんだか今回だけは野グソにシンパシーを感じてるわ」
「あんまりお前に同情されても嬉しくないが」
せめて冗談であって欲しいのだが、このストーカーどもならやりかねんのが恐ろしい。しっかりと部屋に鍵をかけてるんだがな。南京錠で内側から毎日施錠しているのに。
「ところで、毎度何の用なんだ、笹森。用がないなら帰れ」
笹森はのっそりと起き上がりながら、チチチと軽快に舌を鳴らして俺を見る。
「今日はいつものように暇だからきたわけじゃないんだなーっ」
「暇じゃなくても来るな」
「あのね、志村くん。笹森パンダという世界で一番可愛い彼女嫁娘妹姉弟兄神狐猫犬メイドロボ空中花嫁フィアンセ婚約者巫女隣の女子学生巨乳貧乳微乳爆乳微乳超絶激カワナースオタクヒキコモリコタツミカンタモリAV女優の私というものがありながら、どうしてアリス様やネコミミ巨乳メイドと毎日堕落な性活をしているのかなっ?」
「色々ツッコミどころはあるし、引き攣った笑顔なのは確かに恐ろしいが――だがな。俺は世界で一番、女優をバカにする奴が許せねえ!」
俺の頭に血が上る。
「女優ってのはな、体を張って男に必要不可欠な刺激を与えてくれる、世界で一番尊い職業なんだ! それを冗談のように扱うなんて、許せねえ! バカにしたり、蔑むなんて、人間じゃねえ! 例え笹森であっても、俺は許さねえぞ!」
「女優についてこんな昼間から婦女子の前で熱く語らないでくれるかしら。萎えるわ」
アリスの冷たい言葉に俺の息子も萎えたよ。
「笹森。三文字で要約してくれ」
「志村殺」
「いつもと変わりねーな!」
いやまあ、俺も冗談が過ぎた気がするけどさ。
「とにかくっ! こんなに世界一可愛い女の子がいるのになんで志村くんは他の女にデレデレいているのかな!?」
「別にデレデレなんてしてねえが」
むしろ、毎日が処刑日気分だぜ。
「そこでっ! 私とその他のモブのお二人とで、どちらが真のヒロインに相応しいか、決めるべきだと思うのっ!」
「おいおい。何を言って――」
「いいわ」
「え?」
アリスからの承諾の言葉が俺には信じられない。
だって、笹森が言っているのは、俺を巡って戦えってことだろ? アリスがそれを受けて立つと言ったってことは、それはつまり――
「モブと言ったわね? むしろ、主人公はこのアリス様よ。こんなどこに行っても捨てられない粗大ごみ童貞なんてどうでもいいけれど、私をモブとは二度と言わせないわ」
あ、なるほどねー。
というか、回を重ねるごとに俺を指す言葉がひどくなってません? アリス様?
「ふっふーんっ。私に勝てると思わないことだよっ! やっちゃって! 志村くんっ!」
「は? 何故に俺!?」
「ここは日本だよねっ? だったら、カブトボーグで決着をつけないと」
「いや、日本はボーグバトル先進国じゃないし、アニメ放映時にはもうおもちゃ売られてなかったんだぞ!」
「さあ、メイ。いきなさい。あなたのボーグバトル、魅せつけてあげなさい!」
「わおぉおぉおおぉおぉおぉおぉん!」
「犬だ! 猫じゃなくて犬になってるぞ!」
とまあ、ボーグバトルは冗談だったようで。
実際は『ぱにゃぱにゃ』という対戦が楽しいパズルゲームに決まりました。
「ふっ。俺はなんだかんだで『ぱにゃぱにゃ』を全作プレイして全クリしてるんだ。バカ猫に負けるわけがねえ」
そう。俺が『ぱにゃぱにゃ』で負けるわけがない。
そのはずなのに。
メイは対戦開始直後、ニヤリと笑ったんだ。
「何故だ! 何故なんだ!」
俺はメイにぱにゃぱにゃで敗れた。
こんなことって……
「ふっ。所詮は敗北者じゃけえ」
なんて屈辱的な言葉なんだ。
「こうやって毎日惨めな姿を見るのもいいわね。とりあえず、三回戦と行こうかしら。一日一試合ずつ行うということでね」
あはははは、とアリスの高らかな笑いが赤いバラの花びらのように俺の体に降り注いだ。
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