第7話 よろしくま・ぺこりの東京大混乱作戦
「やあ、おいらです」
悪の権化、よろしくま・ぺこり の発声で会議が始まった。広い会議室には“ぺこり十二神将”と呼ばれる将軍たち。それを支える参謀たち。それに、なぜかかっぱくんと水沢舞子がいた。舞子はぺこりの横に寄り添う。
「さて、今回は警察庁と警視庁を木っ端微塵に粉砕するという面白い見世物を観覧できて、たいへん愉快だった。皆の努力に感謝します」
「ありがとうございます、ぺこりさま」
「うん。そして、日本の守護者でありながら私腹を肥やし、なおかつ不正な犯罪捜査をしていた警察庁長官と警視総監を成敗できたこと、満足の極みだね」
「ははあ」
「でもさあ、これだけでは、まだまだ、今の阿呆政権を動揺させるまでにはいかないよね。何かいい案があれば、教えて欲しい」
辰の将軍、竹馬涼真が手を挙げた。
「おお、新鋭。張り切っておるな」
隣の老将、卯の将軍、関根勤勉(せきね・きんべん)がからかう。
「ご老体、そんなこと言ったら、若者が萎縮するでしょう」
子の将軍、三木麻臼(みき・まうす)が諌める。
「そうだったな。すまんな。辰の若大将」
「いえ。ぺこりさまにご提案いたします。東京中に張り巡らされている、高速道路を破壊してはいかがでしょうか?」
場が静まる。
「涼真、いい案だがそれはダメ」
「なぜでしょう?」
「それはな、高速道路は終日営業だ。車やトラックが夜中も明け方も走行している。だから、いつ何時に爆破をしても犠牲者が出てしまう。我々の組織は無駄な殺生はしないの。まあ、百パーセントそうすることは不可能だけど、なるだけ、犠牲は少なく頼むよ」
「ぺこりさんは、犠牲者が出てしまったときは、ご遺族に相当の賠償金をお渡しするのよ」
舞子が言った。
「ご無礼いたしました」
涼真が引き下がる。
「ぺこりさま、若大将の策、交通を変えれば使えるのでは」
酉の将軍羽鳥真実(はとり・しんじつ)が提案する。
「真実、どういうこと?」
「電車です」
「ああ、そうか。電車は終電があるもんな。東京の大動脈を一気に破壊すれば、大混乱だ」
「始発前に、爆破すれば人々は自宅などに待機するでしょう」
「さすがはおいらと同じ酉年生まれ。不動明王さまのご加護がついているぞ」
「予算や人員はいかほど?」
巳の大将、蛇腹蛇腹(じゃばら・じゃばら)が尋ねる。
「相変わらず、脳みそ小ちゃいのう。そういうことは、参謀たちが考えるの。おいらも知らないよ」
「ぺこりさまだって脳みそ小ちゃいじゃないですか! ははは」
「バーカ。おいらはハーバード大の大学院を出ているんだぞ。わざとバカのふりをしているんだ。大将というものは木の棒がいいのだ。そう、イソップさんも言っておられる」
「これはお見それしました」
「蛇腹は戦闘の時に活躍すればいいんだよ」
「はっ」
「じゃあ、細かいことは参謀たちに任せて、散会しよう。読みたい文庫があるんだ」
そういうとぺこりは会議室を出て言った。
「関根さま」
「なんだ、若大将」
「若大将はおやめください。涼真とお呼びください」
「そうか。で、涼真、わしに何用だ?」
「少々、お聞きしたいことが」
「うん、ではテラスで聞こう」
「はい」
二人はテラスへ移った。
「で?」
「舞子さまのことです」
「涼真、まさか惚れてしまったか?」
「い、いいえ。ただ不思議に思うことがいくつか」
「例えば?」
「舞子さまだけが、ぺこりさまをさん付けして許されています」
「いやいや、かっぱのやつもさん付けだぞ。あいつは友達気分でいるからな」
「そうなのですか。でも、お女中に見える舞子さまがなぜに? 実はご愛妾なのですか?」
「それは違う。うーん、そうだな、涼真には教えておいたほうがいいな」
「はっ」
「ぺこりさまには妹がいらっしゃる」
「えっ? ご高覧に配したことはございませんが」
「そりゃそうだ。ぺこりさまの心の中にいらっしゃる」
「どういうことでしょう。わかりません」
「実はな、ぺこりさまは心も体も雌雄同体なのだ」
「LGBTですか?」
「難しいことを言うな。とにかく、普段はぺこりさまはオスだ。しかし、稀にメス、つまり妹さまになる」
「はあ?」
「だが、これは我が組織にとっては大変不便なことである」
「そうですね」
「そこで、人の心を読むことができる舞子さまを招聘したのだ。舞子さまに妹さまの考えを代弁してもらうことで、妹さまの出現を極力減らしているのだ」
「なるほど。でも舞子さまって、たしか有名な女優さんでしたよね?」
「バカだの。どっちが儲かる?」
「ああ」
「わかったな。このことは、あまり他人には口外するな。と言うより、漏らしたら殺されるかもよ。ははは」
関根勤勉は去って行った。
ああ、ところで、今回登場しなかった十二神将についてお知りになりたい方はいらっしゃる? まあたぶん、大して活躍しないと思われるので、ご理解を。考えるのが面倒なわけではない……とは言えない。
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