4.襞

便箋をひらけば立つ芳香に

したためた彼の

知りもしない一室に

忽然とクラゲが現れる


便箋を覗くと地下通路があり

ゼロメートルの空想が

クラゲを出口に

労働に出掛けた

彼の部屋に出る


というのは空想でしかないが

芳香を

図らずしてともに封じたそのとき

封じた部屋の切片が

切り取られたのはたしかで

見知らぬ部屋が

運ばれたのもたしかなことだ


彼の手紙を読み終えて

散歩に出た

身体に

自室の芳香を折り畳んだ

私も一通の便箋である

見慣れぬ木の街路樹も

原産地の気候を覚えているらしい

春の匂いがして

薄紫の遠景が

すこしずつ発色をよくしている

いま

ここに

時が仕舞いこまれている

物の襞が一斉にひらく

埋もれていく私も襞となり

あらゆる香気を吸着しながら

私の香気を発散している

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