異世界でプロデュース、はじめます!

てんか

第1話 異世界転落です?

イケメンは嫌いだ。

顔のいい男達はいつも私から奪う。

自信を。チャンスを。愛を。親友を。

奪うから、信用できない。

信用できないから、嫌いだ。



大雨。

私は郵便受けから冷たく湿った封筒を取り出す。送り主をみて、ああ、と目を瞑る。

この前エントリーシートを送った会社だ。おそらく、一次の結果だろう。

でも開かずにカバンに放り入れる。

そのまま、傘を開いて道路にでた。今日は最推しコンテンツのオンリーイベント。フォロワーさんたちも多く参加していて、なにより推し絵師さんたちもたくさん参加している。

絶対行かなければならない。

就活なんぞに気を取られてなんざいられないのだ。

枢木真冬、21歳。現在就活生。美少女アイドルゲームが大好きな、平凡なオタクだ。

趣味は筋トレ、特技は美少女の魅力を見出すこと。いかなる女の子であっても好きになれる。魅力を見つけられる。

だけどそんな趣味特技をエントリーシートに書くわけにもいかず、就職の進捗は全くと言っていいほどよくない。締め切り前に騒いでる作家さんレベルでよくない。やばい。

日々ストレスと失われていく自信。そろそろ精神的におかしくなりそうなのでイベントに参加することにした。だから通知封筒なんて知らない。今日は推しと推しを愛する人々を愛でる日だ。


そんなわけでやってきた会場。8割は男性だ。皆さん背が高かったりガタイがよかったりするので、なんだか暑苦しい。でも嫌いじゃない。女子は参加者としては少ない中で、私に向かってゆっくりと歩いてくる美少女がいる。

「おはようございます、先輩」

「おはよ、優梨ちゃん」

大学の後輩の優梨ちゃん。今日もニコニコ笑顔が眩しい。私の横にいたオタクが顔を赤くする。わかる、わかるよ。

「久しぶりに先輩とイベント参戦できますね!」

「そだね。どこから回る?」

「とりあえず…Aの方からでいいですか?」

「おけおけ。5番は絶対買いたい」

「わかってますよ」

優梨ちゃんは美少女というだけでなく、私と同じコンテンツが好きで、こういうイベントを度々共にしてきた同士だ。天使。

お互いの推しを知っているどころか性癖まで分かち合っている。

「じゃあ、行こっか」

パンフレットを見ながらAの地区に向かって足を踏み出す。

「はい、先輩」

瞬間、背中を強く押された。

前の人にぶつか……らない。前の人をすり抜けて体が倒れていく。とっさに首が後ろを向く。目に入り込む、優梨ちゃんの嬉しそうな笑顔。可愛い。可愛いけど、どうして──暗転


気がつくと、私の目の前にイケメンがいた。

「え?」

「あ?」

イケメンにガン飛ばされた。なんだこいつ。

「あんただれ」

「*☆¥°÷<$○×〒?」

私の呟きに、イケメンが訳のわからない言葉をぶっきらぼうに放つ。

「なんて?」

「^°+$♪○*×」

やばいなに言ってるのか全然わからない。

比喩ではなくまじで聞き取れない。英語かドイツ語かロシア語ならまだちょっとわかるんだけどまったくわからん。顔は日本人っぽいけどあまりに美形すぎて外国の血を疑う。

中国や韓国の言語とはまた違う発音だし。アジア系の人なのかな。

「・*¥♪#!」

なんか不機嫌そう。言葉通じてないんだって。日本でマイナーな言語使われてもそうそうわかる訳ないから怒らないで欲しいんだけど。そう思いながら周りを見渡した。

「…ん?」

そういえば、何故か私はベットの上にいる。

保健室にあるみたいな固いベットだ。

……ストレスか貧血かなんかで倒れたのかな。

ベットから出ようとするとイケメンにめちゃくちゃ睨まれた。彼は正面にあるもう1つのベットに腰かけていた。美形の睨みめっちゃ怖い。でも私はそんなもので震えるような女じゃない。さっさとこの保健室みたいな部屋から出て……出……出口がない……。

「え?なにこれ??出口なくない??ドアどこ??」

慌ててドアを探す。イケメンがポカンとしてたので身振り手振りで意思を伝えようとするけれど、全然伝わってる気配がない。腹立つ。とりあえず部屋の壁を叩いて回って開きそうなところを探す。

イケメンが不思議なものを見る目でこちらを眺め、はっとした顔をすると、なにやらブツブツ唱え始めた。

この部屋の形は上から見るとパズルピースのようになっていて、二箇所だけ少し突き出ている場所がある。私は右側のくぼみの壁を叩く。ドアではない。特に飾りとかもないけれど、床と天井に金色の不思議な模様と綺麗な紫色の石が嵌っている。

そのまま壁を叩いていこうとすると、叩いていない方のくぼみの石が輝き、光った。

「え??」

光はやがて収まり──そこにとんでもロリ美少女とイケオジさんが現れた。

金髪赤目の美少女はどうやらぷりぷりと怒っているけれど、ベットに腰かけて二人に話しかけるイケメンといい、彼らはコスプレイヤーさんかなんかだろうか。ちなみに、3人はなにやら話しているようだけど、相変わらずなにを言っているのか全然わからない。

表情をみるに、イケメンが美少女に怒られてるようだ。ざまあ。ん?なんかこの字面腹立つな……。

しばらくそうして3人の様子を見ていると、イケメンに何かをぶん投げた美少女が、今度はため息をつきながらこちらをみた。うわ顔面偏差値強。

「混乱したでしょう。気を利かせられなくてごめんなさいね」

美少女が突然流暢な日本語を喋った。めっちゃ声可愛い。

「に、日本語……喋れるんですか……?」

どう見ても外国人だけど。顔の形が。作ってんのかな。

「ニホンゴ?知らない言語ね。というか、あなたこの魔法知らないの?」

ん?いまこのロリなんて言った?

「魔法?」

「ええ、魔法。……みたところ成人はしているようだけど、知らないのかしら。翻訳魔法を教えない言語圏なんてこのご時世存在する?」

「いやーないんじゃないかなー」

さも当然のように美少女は魔法という言葉を繰り返す。隣で渋い声のイケオジさんが困ったように頭を掻いている。

魔法?魔法ってあの?大丈夫かなこの人たち。

どう返事したらいいかわからないでいると、イケメンが口を開いた。

「その女、魔力持ってないよ。目覚めたら湧くかなって思ったけど全然。魔力なしで生きてるよ、そいつ」

「「「は??」」」

魔力?なにそれ。知らない力だ。いや、創作上のものならいくらでも知ってるけど、少なくとも現実では持ち得ない力だ。

でも、イケメンの口ぶりや二人の反応はあって当たり前、みたいな感じ。

「魔力なしでどうやって生きてるのよ……」

何か恐ろしいもののように美少女がこちらを見てくる。ちょっと傷つく。

「ど、どうと言われましても……」

「ていうか、どこからどうやってきたの。突然のように町の上空に現れたって聞いたけど」

美少女に鋭い目を向けられる。イケオジさんは腰からメモを取り出した。

「そ、そう言われても……後輩と一緒にイベ……買い物に行ってて、気がついたらここに……」

うん。Aの島から攻めにいこうと後輩ちゃんと決めたのは覚えてるその後が……ん?後輩ちゃん?誰だ?

「買い物してたら……ってそんな。クルス、どう思う?」

美少女が困った顔をして、イケメンに話を投げた。

「異世界人。具体的には、愛された世界の住人」

イケメン──もとい、クルスは真顔で言い放った。

メモを見ながら考え込んでいたイケオジさんも口を開く。

「俺もクルスに賛成。──サーファの言う伝承ってやつそのままだ。彼女、異世界人だと思うよ」

2人の言葉に、美少女は考え込む。

異世界。もしかして私は、地球ではないところに来てしまったのだろうか。

慌て始めた私に、イケオジさんは気づいたように笑った。

「ああ、こいつが質問ばかりで名乗るのを忘れていた。俺はマルトゥス・イアランドール。マルスでいいさ。こっちの坊主はクルス・マクタガード。こっちのちまいのは…」

「ちまいのって言うなっ!私はローゼマリア・アムトゥスフィア。ロゼって呼んで頂戴。それで、あなたは?」

「く、枢木真冬、です……」

「……サーファの伝承みたいな名前の響きだな」

イケメンがこちらをじっと見つめる。

その様子をみて、ロゼちゃんがにっこりと笑った。

「ありがとう、クルルギさん。……そんな訳で、貴女を異世界からの侵略者とし、私たちアバンディア連合警察は貴女の身柄を確保、取り調べを行わせていただきます」

「え?」


ええええええええ

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