青年と人工知能②
「おお……」
思わず感嘆の吐息をついてしまう。
天に青い空が広がっているからだ。
青く澄んだ空は幾つかの夏雲を抱え込んでいるが、快晴である。
しかし唯一、
そんなものは見ればわかる。
僕は「感動に水を差すな」と言わんばかりに脳内端末を操作して、天気予報アプリをオフにする。
すると今度こそ、遮るものが何もない青空が頭上にあった。
夏の日差しは凶悪で、容赦のない熱線を降り注いでくる。だが、それすらもどこか小気味よい。それにいざとなれば、庭園の木陰へと入ればそれなりに涼めるだろう。
商業ビルの屋上にある空中庭園は広く、
といっても
そんシステマチックな庭園は大都会の屋上にあるからこそ美しいのだろう。これがどこか遠い外国の世界遺産……例えば王宮にあったとしたら逆に
「……誰もいない」
周りを見渡してつぶやく。
炎天下に屋外に出ようとする者は
暑い。
夏の日光直下で動き回るなんぞ、気が狂っているとしか言いようがない。
「けど……せっかく来たんだしなぁ……少しは散策していかないと」
そんな義務はない。
暑ければ冷房の効いた室内に戻ればいい。
けれどもそうやって、自身の行動を無駄にしないために更なる無駄を積み重ねるのは、人間の
そうしてしばらく庭園内をうろつくと、ついには拷問のような暑さに耐えかねて、木陰がかかり涼しそうなベンチを見つけて、そこに座る。
ちょうど風の通り道だったのだろう、座った瞬間にヒュウと風が吹き、
「だ~っちぃ……」
うだるようにしてベンチによりかかる。
「──何をしてるんだ、僕は」
そして正気に返った。
大学の講義をさぼって何をするでもなく、ダラダラと街を徘徊する。その行為に目的なんぞない。もちろん楽しいなんてこともない。
そのあまりにも無意義な行いを嘆くようにして
「なんぞ楽しいことはどっかに落ちてねぇか〜……あと金〜」
僕は無趣味である。
そりゃ人並みに遊びを満喫することもある。漫画も読めば、ふと思いついたように運動することだってある。だが「これが僕の趣味です」と断言できるようなものは何一つなかった。
ふと思い浮かぶのは大学のキャンパスで見かける学友たち。
彼らはみんな今どきの大学生らしく、やれ海外旅行だ、スキーだ、キャンプだ、車だ、バイクだ、合コンだと、青春を
まれに「お金がなければ、アルバイトをしてお金を貯めればいいじゃない?」と、時のフランス王妃のようなことを言われることがあるが、その度に僕はムッとして言い返すのだ。
「──君は涙が出るほどに腹をすかせたことがあるか?」
僕は周囲の学生と比較すれば苦学生であった。それなりに多くのアルバイトをこなした上でなお金欠なのであるから、ちょっとぐらい
東京の家賃はどうしてこんなに高いのだろうか、学費だって馬鹿にはならない。それに食費に光熱費、通信費、日用雑費──日々の必要経費を稼ぐのに精いっぱいなのに、どうして趣味へと金をかけられる余裕が生まれるというのか。
「はあ……つまんねえ。彼女できねぇかな」
そうして結局、いつもの結論に落ち着く。
理想の恋人──できればお金のかからない人がいい。さらに欲を言わせてもらえるならば、可愛くて料理上手、優しくてさっぱりと
まあ好き勝手に述べさせてもらっても、そんな見通しは一切ないので悲しくなる。
しかし……人生とは本当に面白いものではないと思う。
どこの教授の与太話だったかは覚えていないが、仏教の考えには『欲しいものが手に入らない苦しみ』というものがあるらしい。よって僕がこんなにも可愛い彼女を欲しても、決して実現することはないのだ。
──夢は夢のまま、決して叶うことはなく消えていく。
しょせんこの世は
つまらない、
「いかん……思考が病んでいる」
今の僕はいわば川底のヘドロだ。
よって気持ちを切り替えるためにも、もう一度、周りを見渡してみることにした。
そうすると先程と一つ違った点が発見できた。
屋上の縁に人影が一つ見えたのだ。
「おいおいおい……! マジか」
瞬間、だらけていた身をガバリと起き上がらせる。
庭園の
つまりはその人影は、今まさに、屋上から飛び降りることができる位置にいるのだ。
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