ギミックをしかける
ギミックをしかける①
僕、久我哲生という男はなんの特異性もないごく一般人であることは、間違いようもない事実である。決して人に誇れるようななにかしらは持ち合わせていないし、逆に万人から疎まれるようななにかしらもない。
だからいくら時がたとうとも、あの年の夏の暮れというのは鮮明に思い出せるのだ。
僕の人生で、あんなにヘンテコで痛快な出来事というのも中々ない。
どころか世界の史実を見渡してもごく稀であろう、あの珍事。世界中をまきこんで行われたあのお祭り騒ぎの核心に、まさか僕が立っていようなどと、いったい誰が予想できるというものだ。
今になって思えばあのときを境に世界は変わった。
だれがどう見たってあれは歴史の節目であった。
既存の社会構造は見直されて、人々の規範意識さえ塗り変えてしまった。それまで幾度となく繰りかえされてきた技術革新をもってしても成すことができなかった、人の本質の変容。それを成し遂げてしまった。
それは、ひとつの人工知能によってもたらされた。
名前をギミックという。
いつも斜にかまえたような笑みをたたえるそいつは何故かウサギの姿を多用していた。
人のすること成すことに一々分析じみた見解を述べては納得し、嫌らしい笑みを向けてくる。ときに嫌がらせのような悪戯をしかけてきたかと思えば、ときにお節介にも人の恋路を応援してきた。当時、僕が知りえたことではなかったが、世界中のあらゆるところに出没しては、悪を懲らしめてみたり、逆に悪ふざけのように騒動を起こしたりと、様々な形で人々の生活に首を突っ込んでいたらしい。
その呼び名は世界中で「兎の妖精」やら「怪傑兔」やら「耳長畜生」やら、様々な感情こめられて呼ばれていたようだが、確かに言えることが一つだけあった。
きっとあいつは人というものを心の底から好いていたのだと思う。
だからあんなにも活き活きと嫌がらせを仕掛けてきたのだ。
そんな天邪鬼な人工知能、ギミック。
決して嫌な奴ではないが嫌らしい奴ではあった。
ありすにとっては家族にも等しい存在で。
そして僕にとってはかけがえのない友人であった。
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