Marine ~朽ち果てた世界で~

夏樹智也

Ep.Ⅰ 鉄の森に生きる少年

ある少年の話をしよう。

俺はいつものように荒廃した鉄の森にダイブしていた

かつてはトウキョウと呼ばれていたらしいが過去の栄光の面影もない。

ダイブと言われて思い浮かぶのはやはり水だろうか。

しかし今やダイブできる水も少ない。

と俺はかつては海と呼ばれていた、赤い液体の貯まっている地点を見た

機械仕掛けの魚しかもう生きられない

他の地方からの旅の者の話では″深海″と呼ばれる地域ではまだ魚が残っているらしい

昔あの液体に潜った大馬鹿野郎がいたが全身に火傷を負った。

じゃあダイブとはなんなのか、

それはこの鉄の森の探索の事だった。


そしてダイブしている最中に俺はそいつと出会った。


男とも女とも捉える事のできる端整な顔立ちに黄色、いや金髪の髪の毛に赤色のコンパチブルスーツにも見える服装に身を包んでいるが

俺らと決定的に違うのはヘルメットはおろかマスクすら身に付けていない。

そしてたった一人でアンドロイドを狩り

そしてアンドロイドに存在する生体部品と呼ばれていた筋肉部分を食らう

そんな子供だった


俺ら人間は15年前の戦争以来住める場所が限られてしまった。

人間は一度理性を失えば非人道的な事や条約を破るなど簡単に出来てしまう

それを物語るのがこの赤色の空気と昔、シブヤと呼ばれていた地域にある大穴だ


そして俺の左手も戦争で失ったものの一つだ

世界規模の被害からすれば小さいだろうが

と俺は霞んだ太陽に左手をかざす。


すると大きな轟音が誰もいないはずの地区に響く。

これは.......地響きか?

俺はその音のした方向を見ると

そこにはでアンドロイドの足を鉤爪で抉じ開ける子供の姿があった


「そこの坊主 大丈夫か?」と俺は話しかける

生体部品というより肉を加えたまま、子供は頷いた

喋りはしないが言葉は通じている

「俺らはリサーチャー探究者だ お前を助けてやる」と言った

すると子供は鉤爪を見せ威嚇してきた

そりゃあそうだ 見ず知らずのおっさんにお前を助けてやると言われて信用する子供なんぞいない。

「まて俺は敵じゃない 」と両手を見せる

「食うか?」と俺は懐から保存食を取りだし子供に渡した。

すると最初は警戒したが背に腹は変えられないのか保存食を受けとりそれを食べた

「ついてこい 」と手を差し伸べると子供はその手をつかみ俺と行動を共にした。

「おやじさん、サバイバー《生存者》を発見した 子供だ 年齢的には戦争後に生まれたんだろう」

と無線する

《珍しいな.......ということは他にもサバイバーがいる可能性があるな........》

と渋い声が帰ってくる

《迎えのヘリをよこす そこにいてくれ》


子供と身振り手振りで会話をしていると迎えのヘリコプター 、ヴ式汎用回転翼機ブラックホークがやって来た、

元の名はブラックホークらしいがブ式よりヴ式の方が聞こえがいいかららしいが俺にはようわからん


俺らは赤い空の下から数少ない青い空の下へ戻ることができた


木や石で建てられた家屋は時代が江戸時代に戻ってしまったかのような気分になる

トウキョウの摩天楼を見たあとだと特に

だが建築方式はトウキョウの図書館などで探した洋風建築なのである

「ここは俺らの町 和平かずひらだ」と子供に紹介した

するとこの子はヘリの窓に貼り付き感嘆の声を上げていた


城と呼びたくなる建築物の第3ハンガーにヘリを下ろし僕らは歩いて本部のある部屋へ戻った

和平の町は畑等が中心で戦争を経験した人々が寄り添って作られた亡命地域だった

「そういえばあんた名は?」と駄目元で訊くと

「マリーン・キャンベル」と喋った

「男か?女か?」

「男じゃないかな気にしたことねえから分かんないや」

「それよりも 久しぶりにシャワーが入りたいな」とマリーンは言う

「大丈夫だ 任務から帰ったときには必ずシャワーに入らなきゃいけないんだ」と俺は説明する

「その前にうちのボスことイシュメールに挨拶しにいかんとな こっちだ」と俺はマリーンをつれてボスの部屋に入った。

「この子があの保護した子かい」とボス、ことおやじさん

「あんた歳は? 」

「10 親が死んだのは5年前」

「そうか......あの世界でよく生き延びたな」

「俺あの世界でもマスクしないで生きれるんだ、話すとちょっと苦しいけどね」

「だけどこっちはいいね 話しても苦しくない」とマリーンは微笑む


「15年前まではこれが世界の常識だった......」と俺は呟く

「15年前?」とマリーンに訊かれ俺はおやじさんの顔を見た

おやじさんは静かに頷いた

俺は左手の手袋を脱ぎすてる 本来肌の色の手があるべき場所には

深紅の義手バイオニクスアームが納められている

そしてその義手で懐から古い写真を取り出した

「これが戦争で俺の失ったものだ」

写真には俺の家族だった人々が写っている

愛しい妻、可愛かった息子、だが彼女らはもう生きていない

この写真の外には。

「俺達は後世に残さなければいけないんだ、人間の生きた証を。」

「だがすまなかったと思っている あんたにいってもどうにもならんがな」

と俺は言う

「この義手痛くないの?」と訊いてきた

「痛みはない」痛みはないが幻肢痛ファントムペインはある幻肢痛が襲ってくるとき、同時に彼女らを夢に見る。 守れなかった家族を。

「まあ....なんだ 二人でシャワーでも入ってきてくれ」とおやじさんは言い、俺らは部屋を後にした。


「何年シャワー入ってないんだ?」と俺はシャワールームに行く道筋で聞く

「五年かな」とさらりと答える

「たまに水道で体洗ったりはするけど シャワーは入ってない」

「俺が洗ってやる」と言い俺らはシャワールームに入る

華奢なマリーンだが脱いでみると5年サバイバルしてきただけあり、かなりの実用的な筋肉がついていた。

シャワールームで俺は体の至るところを洗ったが

やはりこの少年傷だらけだ。

尤も俺も人のことは言えないが

一番目立つのは大きな胸の傷だ

「マリーン、この傷どうした?」

「5年前に剣を使うアンドロイドにつけられた傷だ」

「そのアンドロイドに親や、俺をここまで育てた師匠を殺した」

そうか俺が50年で潜り抜けた修羅場をマリーンは5年で潜り抜けたのだ。

俺は左手ではなく右手でマリーンの頭をただ無言で撫でた

「お前を俺みたいにはしない....」そう心に誓った。

マリーンの髪を洗っているとき一瞬だけ息子と重なった気がした

昔は息子の髪をよく洗ってたものだ。


俺らがシャワーから出るとおやじさんが椅子に座って待っていた。

椅子の横には大きめの木箱がおかれている

「早速だがお前に一つ頼みたいことがある、ついさっき、戦争中の旧ヨーロッパ連合の空母 ケストレルが漂着した。」

「俺に見てこいと?」

「そうだな、 偵察隊の報告だと 戦闘機は大量に残っている、死体は今のところ0」

「なるほどな」

「明日の朝10:30また本部に来てくれ」とおやじさんはメモ用紙を渡してきた

いつものように手作りの作戦要領だ。

「また流れたりしないのか?」と俺は疑問を投げ掛ける

「偵察隊によって錨が下ろされている、ちょっとやそっとじゃ流れんよ」

「格納庫と錨だけ確認しただけだから細部まではまだわかっとらん」とおやじさんは言う

「わかった明日だな そうそう マリーンは俺が引き取る」と俺は言う

「そういうと思ったよ これだけ渡しておこう 」と木箱を渡してくる

「こいつの服だ、婆さんたちに編んでもらった あとコンパチブルスーツも入っている」

と俺に中身を説明する

「わかった じゃあ明日また会おう」とおやじさんと別れた


「マリーン、俺の家に行こう今日はゆっくり寝るぞ」と二人で家へ帰った


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