第3話 再会
俺と師匠が飛び込んだ先は、聞いていた通り闇しかない世界だった。
上下左右が分からないというか重力を感じない為に、歩いても進んでいる感覚がない。
「ここは生物の新陳代謝を極限まで低下させて仮死状態にする保管庫の様な場所モジャ。動ける間に急いでマリを探すもモジャ。」
姿は見えないが頭上から師匠の声が聞こえた。
今度はフュージョンしなくて良かった。
「ちょっと手荒だけどサカタの中に眠っている鬼の力を少し表に出すモジャ。」
鬼の力を解放ってカッコいいけど、元があの神主だから悲惨な事にならないといいけど。
師匠がモジャモジャと祝詞を唱えているが聞き慣れない言葉が多すぎて認識出来ない。
祝詞が終わると頭が熱くなり、そこからジャキンと何が飛び出した。
手で触ってみると二十センチ程の立派な角が確認出来た。
「串刺しになるところだったモジャ。サカタ、マリの居場所は感じるモジャか。」
神力が角から電波の様に飛び、その反射で周囲の様子が手に取るように分かる。
この空間にいる生物はやばい。
人だけでなく、魍魎の類いも沢山いるのだ。
新陳代謝が下がってるといるのだろうが、動いている生物もいるから刺激しない様に移動する必要がある。
段階的に角に注ぎ込む神力を上げていくと、仰向けで眠っている様なマリ様の姿を確認する事が出来た。
「左前方の方角にマリ様を見つけました。魍魎の類いが沢山居るので静かにしていて下さい。」
ヤバそうな奴を避けながら慎重に移動するが、変なのが着いてきている。
次第にその数は増していき、今や俺の後方には千を超えるであろう数の魍魎が着いてきている。
「師匠、どデカイの一発かまして下さい。」
「ここは神力が回復しないから無理モジャ。脱出の神力でギリギリモジャ。」
かろうじて一定の距離は保たれているから、このまま進むしかない。
マリ様が見えたが眠っている様だ。
感動の再会は後回しだ。
肩にマリ様を担ぎ上げて再び走り始める。
「師匠、ここからどうやって脱出するんですか。」
「神力が少なくても発動する門を開く予定モジャが、何処へ飛ぶか分からないモジャ。」
欲を言えば地球に帰りたかったが、マリ様と一緒なら何処だった構わないさ。
「我は虫の王モジャ。日落ちる国より日昇る国に問う。満ち足りた世界への橋を示せ。出でよ光龍門。」
巨大な光り輝く芋虫がアーチ状になって出現した。
龍じゃ無いじゃん。
まさか、師匠は自身の事を龍だと思って無いだろうな。
プニプニした芋虫の橋を渡り終えると、視界がパッと切り替わり中世ヨーロッパ風の城門が出現した。
同時にマリ様の重さが肩にズッシリとのし掛かる。
「サカタ、止まるなモジャ。後ろの奴ら着いて来てるモジャ。」
えっ、普通この流れだと敵は着いて来ないだろ。
何やってんだよ芋虫。
出入り口と思われる所へ、大声を出しながら走って向かうが検閲で混雑している。
「魍魎が沢山来るぞー。門を解放してくれー。」
俺は振り返る余裕は無いが、衛兵の慌てようを見る限りでは後方にいる魍魎を確認してもらえているのだろう。
俺が到着する頃には出入口付近の人達は荷物を置いて避難が完了していた。
「早くこっちに来い。門を閉めるぞ。」
年季が入った皮の鎧を着た衛兵が手招きしている。
少しだけ開いている扉の隙間に飛び込んだ。
扉が閉じられると人々は安堵の声を上げていたが、こんな扉一枚など簡単に破られるのではないだろうか。
「見ない顔だな。ようこそ始まりの街ニブルへ。魔物はここへ入って来れないから安心しろ。とりあえず、あっちで事情を聞かせてくれ。」
扉を開けていてくれた衛兵に従い小部屋に移動する。
魍魎達が攻めて来るんじゃないかと心配していたが、一向にその様子は無い。
どうやら衛兵の言う通り入って来られないのだろう。
「そのお嬢さんは大丈夫なのか。」
「気を失っているだけなので大丈夫だと思います。」
俺達が魍魎を連れてきたのがバレたら損害賠償を請求されてしまうだろう。
マリ様を看病している振りをして架空の設定を急いで考えている。
「先ずは君達の名前と職業を見たいからステータスを見せてくれ。」
もしやラノベで読んでいた様な世界に来たのか。
狭間の世界でかなり素振りしたからレベル999まであり得るぞ。
なんとか隠蔽したかったが、衛兵が怪訝な顔を見せ始めたから素直に見せるしか無い。
「事情があるので驚かないで下さいね。ステータス。」
【サカタ】
レベル 1
職業 浮浪者
体力 2
力 2
素早さ 2
知能 1
健康状態 栄養失調
犯罪歴 主人のシーツを無断で性的に使用
目の前に浮かんだボードには明らかに雑魚っぽい数値が並んでいる。
しかも、犯罪歴に赤裸々な個人情報まで流出している。
「これは酷い。それに犯罪歴があるな。まぁ、この程度なら教会へ銀貨五枚くらい払えば許されるだろう。赤文字に変わる前に払っておけよ。」
マリ様に払うならまだしも、なんで教会に払わなくちゃいけないんだよ。
でも、払えば犯罪を許してくれるなら全力で金策に走ろう。
師匠は全く喋らないから、通りすがりの芋虫という設定でいいか。
「んんっ。今日の幻覚はリアルね。私の妄想力も馬鹿に出来なくなってきたわ。小説家でも目指そうかしら。ふふっ、サカタが餓鬼みたいになってるわ。」
久し振りに聞いたマリ様の声は鈴の音の様に美しかった。
「マリ様、ここは現実です。御迎えに上がるのに二年の歳月を費やしてしまい申し訳有りませんでした。」
深々と頭を下げて、上目遣いでマリ様をチラ見すると
目を瞑りながら涙を流していた。
「サカタ、良く助けに来てくれました。心からお礼を言います。」
「お嬢さん、感動の再会中に悪いんだが後にしてくれねえかな。ステータスを見せてくれ。」
マリ様に耳打ちでステータスの概要を伝える。
頭が切れるマリ様は一度の説明で理解しただろう。
「ステータスですわ。」
【椿マリ】
レベル 1
職業 魔法使い
体力 25
力 8
素早さ 28
知能 108
健康状態 記憶混乱(小)
犯罪歴 サカタのパンツの匂いを無断で嗅ぐ
マリ様が俺のパンツを・・・
マリ様の顔が茹でタコの様に真っ赤に変わっていく。
嬉しい様な恥ずかしい様な。
「ガッハッハッ、お前ら面白いな。お嬢さんも教会に支払いしてくれよ。最後にあの魔物は何処からどの様に現れたか教えてくれ。」
これの返答次第では牢獄行きも有り得る。
マリ様だったら上手い回答を考えるかも知れないが、時間をくれないだろう。
「盗賊に捕まっていたマリ様を救出した後、街道を歩いていたら突如現れたので逃げてきました。」
「ちょっと曖昧な説明だけど、面白かったから終わりでいいぞ。変態ごっこは程々にな。」
小屋を出て落ち着いて街並みを見るとレンガ調の美しい光景が広がっていた。
街の中心にはテーマパークで見たような城もある。
残念ながらエルフやドワーフの亜種族は見当たらないが、十分男心をくすぐられる世界だ。
取り敢えず、金が無いから何とかして宿代を稼ぐ必要がある。
俺と師匠は野宿で良いけど、マリ様だけはベットに寝かせてあげたい。
「マリ様、大変申し訳ありませんが手持ちがありません。何かお金に換えられそうな物をお持ちじゃないですか。」
未だに茹でタコ状態のマリ様は、緑色の宝石が付いた指輪を外して俺に手渡した。
「こんな高価そうな指輪良いんですか。」
「サ、サ、サカタがもっと良い指輪を買ってくれれば、も、も、問題ないわ。」
茹でタコマリ様はニコっと笑ってそう言ったが、直ぐに下を向いてしまった。
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