優しい君への贈り物

勝利だギューちゃん

第1話

春・・・

桜が咲く季節・・・

桜は嫌いな人は、殆どいない。

そう、殆ど・・・


つまり、嫌いな人もわずかにいる。

僕も、そのわずかの1人だ、


しかし、嫌いな人には好かれてしまうのも、時折ある。


「そんなに、私が嫌い?」

桜の木の枝から、ひとりの少女が声をかけてくる。

「さくらか・・・」

「さくらか・・・って、そっけないね」


僕は、何もいわずに桜の木の下に捨てらている、ゴミを片づける。

「頼まれてるの?」

「いや、違う」

「この公園は、君の敷地内?」

「だったら、とっくに立ち入り禁止にしてる」

「じぁあ、なんで」

「趣味だ」

実際は違うが・・・


さくら・・・桜の木の精・・・いや、花の精か・・・

まっ、どっちでもいい・


小さい頃から、花が好きだった。

桜が好きだった。

なので、お花見で大騒ぎしてゴミを放置していく連中が許せなかった。


そして、僕はいつのころからか、そのゴミを掃除するようになった。

でも、見られるのは嫌なので、早朝にしている。


しかし、あまりにマナーのない人たちが多い。

坊主憎ければ袈裟まで憎いではないが、いつしか、桜の木を憎むようになった。

お門違いと思うが・・・


ただ、桜の木には、「人間は悪い人ばかりではない」と言う事を知ってほしかった。


「偽善だね」

「そう取りたいのなら、取ってくれ」

「冗談よ。君には感謝しているよ。」

「別にいらん」


さくらとは、ある日突然知りあった。

その経緯は、もう覚えていない。


ただ、自分の名前の、「若葉緑」と言った時、

「女の子みたいな名前だね」と言われ、カチンと来た。


僕は、男だ。念のため・・


「さてと、こんなものか・・・」

ゴミは出来る限り分別しているが、やはりわかりにくい物がある。


しかし、花の命は短い。

桜の季節はすぐに過ぎ去る。


そして、誰もいなくなる。


「まるで。アガサ・クリスティの小説だね」

「さくらは、それを読んだのか?」

「ううん、題名だけ知ってる」

「なら、読んでくれ」

その通りなら、犯人は僕になる。

そして最後は・・・


やめよう・・・面倒くさい。


「ねえ、証拠を見せようか?」

「何をだ?さくら」

「この子たちが、君に感謝しているという理由」

「いや、そんなつもりでやってない」

「いいから、今日の深夜に来て」

「僕を、不良にする気が?」

「違うよ・・・いいから、深夜2時にね」

へいへい


その日、いや正確には、翌日か・・・

言われた通り、やってきた。


「さくら、来たよ」

声を出してみる。

深夜なので、控えめに・・・


「ようこそ、若葉緑くん」

「さくら?」

「君に、君だけのために、私たちからの感謝のしるしです。受け取ってください」


その瞬間、散り始めていた桜の木が、全て満開になった。

夜桜か・・・初めて見る・・・


でも、誰か入って来ないか?


「大丈夫、結界を張ってあるから、誰も入れない。

君だけの、貸し切りよ」

「さくら・・・」


とても、奇麗だ。

すっかり忘れていたが、花とはこんなに奇麗だったのか・・・


「さくら、ありがと・・・」

どうも、こういうのは苦手だ・・・


「まだ、終わりじゃないよ。緑くん」

「えっ」

「私たちは、木なので、動けない。でも、心を伝える事はできるわ。

今から君に、私たちから、歌を贈ります。」

「歌?」

「緑くん、受け取って」


その瞬間、歌が流れた。

僕の心に直接響いてくる。


つまり、他人には聴こえない。

僕だけの、歌・・・


その歌の歌詞は、鮮明に覚えているが、僕だけの秘密にしたい・・・


「さくら・・・みんな・・・ありがとう・・・

ごめん、上手く言えなくて・・・」

「ううん、その表情見れば、緑くんの気持ちはわかったよ。

じゃあ、行くね・・・」

「えっ、もう?」

「うん。また会おうね。変わらない君でいてね。緑くん」


気がついたら。僕は立ちつくしていた。


あっ、こうしている場合じゃない。

掃除しないと・・・


でも、ゴミが落ちていない・・・

何故だ?


「君の心が、伝わったからだよ。緑くん」

さくらの声が、響いた。


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優しい君への贈り物 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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