屋上ですが彼女は下を見ました。②

 「わざわざ屋上に来なくたって教室とか色々場所はあるだろ。お前人気者なんだし、クラスの奴らとバカみたいに喋ってアホみたいに食ってらいいだろ」

 「えぇ…性格悪…」

 

 分かりやすく言って、室町はクラスだけでなく、学校全体の人気者だ。廊下を歩けば周りからの挨拶は絶えないし、教室で室町を囲っている奴らはいつも笑顔だし、放課後校舎の裏を覗いてみれば大体告白されている。それは同学年に限ってのことではなく、先輩後輩も同じだ。どこでも誰にでも明るくて優しく振る舞う室町のイメージは単純な言葉で言い表すと“元気な学校のアイドル”だ。そのせいで、室町が屋上に入ってきたときにまとっていた落ち着いた雰囲気に新鮮味を感じたのだろう。

 とりあえず人気者の室町がお昼をどこで過ごすか迷うのがどうしても信じられない。

 だって超リア充コース真っ只中だよこの子。


 「事実だろ」

 「松澤ってそんなんだったっけ」

 「さあな」

 

 クラスの人と食べないとしても、室町には決定的な友人がいる。

 

 「KRrlのメンバーもいるだろ」

 「……」

 「……」


 室町は俯き、沈黙が降り注ぐ。


 「最近…悪いのよ」

 「目つきか」

 「松澤まつざわと一緒にしないで」

 

 おぉ、いいツッコミするじゃんか。

 残り少ない弁当の中身を食べきり、俺は室町むろまちに話の続きを視線で促した。


 「仲悪いのよ…」

 「彼氏とか」

 「ば、バカ!そんな人いるわけないでしょ!」


 なかなかやるな、ツッコミ。

 

 「ほお、意外」


 でも、毎日のように告白されてるからそろそろリア充にでもなっているかと思った。


 「メンバーよ。4人で活動しているんだけど、その3人と仲が少し悪くなっちゃったの」

 「え、どしたの」


 室町は体を抱きしめるようにして寂しそうにそう言った。


 「一応聞くけど、KArlの中で誰が1番人気だと思う?」

 「室町だろ」

 「だよね」

 「そもそもあとの3人の名前知らん」

 「聞く人間違えた!?」


 だってみんなバラバラのクラスだし休み時間俺はいつも寝てるふりしてるし…顔は知ってるけどね…興味が無いんだよ。


 「まあいいよ。自分で言うのもなんだけど私が今のところ1番人気なの。最初はみんな同じくらいだったんだけど、雑誌の取材を受け始めてから学校のみんなの対応がガラッと変わったのよ」

 「特に室町への対応がってところか」

 「うん…」


 いつも4人一緒にいることが多いKArlのメンバー。最近だと雑誌の取材を受け始めたり、学校側からメンバーそれぞれのイメージカラーが入った頭髪を許してもらっているほど活躍中の駆け出し女子高生バンドだ。

 もちろん最初はどこにも名前が上がらなかったようなバンドだったのだが、知名度が上がればメンバーそれぞれの評判も一緒に付いてくる。

 簡単にまとめてしまえば3人は室町むろまちの人気に嫉妬をしたのだろう。


 「大変だな」

 「何か、よく分からないよ。それが今クラス中で噂になっててさ、居づらいの」


 その表情を俺は初めて見た。

 いつも明るい室町明音から流れた透徹した雫を強く吹いた風がさらっていった。


 「俺と屋上にいることも噂になったらマズイと思うぞ」

 「別に気にしない」

 「なんでだよ」

 「そ、それは…」


 室町の頬は少しだけ赤く染まる。


 「ん?」

 「な、なんでもない!」

 

 えぇ…いきなり何ですか…

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