シェアハウスですが女の子を拾いました。③
「えー、この数式は——」
体育館での始業式が終わり、数学という悪魔の時間が幕を開けた。
数学は嫌いだ。別に解けないからではない。勉強して公式をある程度暗記しておけばそれなりに問題は解ける。嫌いなのは数学の性格の悪さだ。
『この式を使う』という文字と一緒に公式を問題の
「あっ…」
「ありがと…」
「どーも」
小声でそう言うが、正直無視して欲しかったのが本心だ。
それは高校一年生の夏の出来事。
授業は今と同じ数学だった。当時、俺は無性に“彼女”という存在が欲しくなり、なんとか出会いを作ろうと隣に座る女子に向けて、自分の消しゴムを何度も落とした。結果は0勝5敗。女子が拾う前に、前方に座る
渡辺君、あの時ずっと寝てたくせに俺の消しゴムが落ちたタイミングで
そしてその後、少しばかりの期間、クラス内では、俺が消しゴムをわざと落としてまで出会いを求めていたという話で持ちきりになった。
そのことが多少のトラウマとなっている。だから
——キーンコーンカーンコーン
午前の授業を終えるチャイムが鳴り、それを
事故防止のために数年前から取られた対策は、俺の前では残念ながら無力だ。
そしてその技と髪留めを、俺は入学時に
「さむっ…」
ただでさえ標高の高い長野県。そこに設立された高校の屋上は、4月の風といえど、それなりに冷たいのだ。けれど、去年の冬を屋上で過ごした俺にとって、この程度の肌寒さなど、許容範囲だ。
居場所がなくなると、人間は進化する。鳥って確か
自分の思考に自分でツッコミを入れて、鼻で笑う。
「うわ…」
この声は、そんな自分に対しての
忘れていたが、クリスさんが朝飯当番だといつもこれなんだよな…
あの変態め…
それからの授業は何事もなく進み、帰りのホームルームが終わった
バイトをコロコロ変える高校生がいる中、生活を
店のためにも遅刻はできないな!
平日なのにそれなりに忙しい仕事を終え、タイムカードを切る。時刻は9時13分。かなりいい時間だ。
「お疲れ様です」
「お疲れ様ー」
「おつかれー」
社員達の気の無い挨拶を
店の隣にあるスーパーに寄り、
桜の並木道に差し掛かり、先ほど買った水羊羹を取り出し、かじりつく。
自転車から降りて、その場に立ち止まり、スマホを取り出す。この光景を何となく写真で収めたかったからだ。
写真を撮り終え、
決してこの写真がインスタ映えめっちゃしたからこれを機に思い切って投稿して少し誰かにDMで『その写真綺麗だね!どこで撮ったの?』というコメントが欲しいからとかそんな馬鹿げた理由ではない。うん。
アプリの画面が開かれると、同じ学校だからという
俺が高校生活を楽しんではいけないことなんて重々承知だ。
でも…
夢がない毎日が嫌いだ。
夢に近づける奴が嫌いだ。
夢に向かう環境が整っている奴が嫌いだ。
「はぁ…何やってんだか…」
大きめのため息を吐いてスマホを鞄に突っ込みチャックを閉める。
入学当初から生きるのに必要な金を稼ぐため、日々アルバイトに打ち込んできた。そのせいで部活は入れず、せっかく友達になった友人の遊びの誘いを断り続けるはめになった。その結果、周りに人は徐々にいなくなり、何も得られず。誰も助けることができず……
自転車を押しながら歩き、ひたすら
「君は、どうして辛そうな目をしているの」
その一瞬。風が勢いよく吹き、桜の花びらを大きく掻き回した。
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