淫魔女王の蹂躙録
こおろぎ
第1話 世界平和
「ほらほら、こっちこっち♪」
「くっ……!」
妖艶にして淫靡。
「惑わされないでください……!」
「魅了魔法もここまで来ると脅威ね……」
蠱惑的にして魅力的。
「エニル! 結界は!」
「ダメ、魔力が充満してて……集中出来ない……!」
「ダメだよー、私に挑んだ時点でカラダ1つ以外使わせないから♪」
それはくすくすと笑いながら、黒くどこか美しいコウモリのような翼を打ち、レンガ造りの大部屋を縦横無尽に飛び回る。
勇者の聖剣も魔法使いの魔法も、それの速度についていけずに天井や壁に穴を空けるばかり。
それによって充満した魔力により、感覚器官が上手く機能していないのだ。
「このまま全部吸い取ってあげるよ……♪」
それは銀色の長い髪を揺らしながら笑い声を響かせる。
それの魔力に触れているだけでも勇者たちは体力を削られていく、長期戦は不利でしか無い。
しかし決定打も無いこの状況、勇者たちはそれに対する打開策を探していた。
「たかだかサキュバスのくせに……!」
「されどサキュバス、でしょ、可愛い魔法使いさん♪」
サキュバス。
古く、とある聖典に描かれた怪物。
夜な夜な男性の精液を採取し糧とするためにベッドに現れ、美しい女の姿で誘惑して交尾を行う悪魔である。
魔王の尖兵である悪魔の中でも低級であり、聖なる力を使えば即死、そうでなくとも単純な打撃、斬撃、射撃、魔法でも基本的なものを使えば太刀打ち出来る。
それはサキュバスの戦闘能力の低さからくるものであり、誘惑や魅了などの搦め手を得意とするサキュバスにとって正面切って戦う時点で敗北が確定している。
さらに、そもそもサキュバスたち自体、元々理性や知性が薄いのもあり、戦術というのも構築できず。
結局のところ、"状況によっては脅威足りえるが大体の状況においては障害にはならない"のがこの世界の常識である。
だが、あらゆるものの中には例外が存在する。
もちろんサキュバスにも。
実戦に耐えうる膨大な魔力と卓越した誘惑と魅了の魔法。
身体能力もサキュバスのそれとは比較にならない。
身体つきも、少女のそれであるサキュバスと違い、身長や体重、体型すら自由自在。
完成した"女"の像として君臨するそれはサキュバスの皇帝。
サキュバスロード。
夢魔の王、淫魔の女帝。
究極の"女"の力を持って、それは勇者と対峙していた。
魔王の配下、その幹部である彼女に挑むことは、勇者たちにとってある種の必然だった。
比較的形成は有利、勇者たちはサキュバスロードに苦戦していた。
魅了や幻惑、誘惑への耐性がない訳ではない、しかしサキュバスロードのそれは勇者たちの想像を超えていた。
勇者レーヴァは何者にも靡かなくなる不動の心を授けるという指輪で、魔法使いステラは魔力を跳ね返す羽飾りで、僧侶エニルは魔を討ち崩す聖なる十字架でそれぞれ耐えるが、それでもなお貫通して感覚器官はしっかりと言うことを聞かない。
アイテムたちは仕事をしている、サキュバスロードの魔法が強すぎるのである。
「《
このままではいずれ全滅する。
勇者は聖剣を振りかざし、聖なる光で周囲を照らす。
「くっ……」
以下にサキュバスロードと言っても聖なる力は弱点。
一瞬怯んでしまう。
その一瞬。
「貰ったッ!」
勇者。
聖剣。
「イヤァァァァァァァッ!!!!」
胴体から真っ二つに切り裂かれたサキュバスロードは、虚空へとその姿を消した。
勇者たちは強敵との戦いの勝利に歓喜を分かち合い、サキュバスロードの城を後にする。
それからおおよそ半年後、勇者によって魔王が討伐された。
世界に平和がもたらされたのである。
人々は喜び、笑い、時に泣いて。
幸福と共に、生きていった。
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