一瞬の恋を語る子供たち
影宮
一人目
それは八重桜の下で舞う一人の少女。
狐のような笑顔を浮かべていた。
鈴の音を響かせて、誰にも知られずに舞っていた。
彼女は言う。
「待ってる。」
何を誰をとは答えずに。
休むことなく舞って待っていた。
昔ここで誰かが死んだそうな。
それが若い若い一人の忍。
笑いながらこう呟いたそうだ。
「来世また此処であんたを待つ。」
時は流れ流れ過ぎていった。
前世が忍であるならば、彼女はきっと待っている。
己を殺した一人の武士を。
八重桜が散って舞い落ちる。
その時はまだかと少女はうたう。
朝が過ぎて、昼も過ぎた。
少女は少女のままで夜を舞う。
武士はいつになれど現れない。
それでも舞って待ち続ける。
少女の体が透き通っているような。
だんだんその姿が黒い着物へと変わるような。
舞い続ける内に過去をうたってる。
「あんたはいつから?私はいつまで?」
悲しげにただ苦しげに血を流しながら舞い続けた。
春が過ぎて終わるその日まで、彼女は一人で踊り続けたそうな。
忍の恋がここでまた枯れるらしい。
「心を持った忍なんて…憐れなだけ。」
それでも笑うの、心で泣きながら。
春は一瞬であった。
瞬を舞い続けた。
彼女は八重桜の最後の花弁と共に消え去った。
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