第52話 守る

 優香さんの腕を僕は両手で掴んだ。


 僕の視界は揺れていた。

 崖下に僕と優香さんは一緒に吸い込まれそうだった。


「嫌だっ! 生きるんだ!」

 僕はありったけの力を込めて力の限り優香さんの腕を引っ張った。ぐいっと僕は自分の体を後ろに倒した。


「優香さんっ!」


 僕は優香さんを引っ張り上げて抱きとめてすくい上げる。

 そうして優香さんを抱きしめたら優香さんは大声で泣いた。

 優香さんは叫びながら泣く。


「なんで死なせてくれなかったのよっ?!」

「好きだからに決まってんだろっ!」

 僕は優香さんの頬を引っ叩いてやりたかった。

 代わりにキスをした。


「もう二度とこんな馬鹿なことはすんな。僕と一緒に生きよう。死のうとするなんて僕が絶対に許さない」

 僕は初めて本気で優香さんに怒った。



 この時の優香さんの驚いた顔は一生忘れない。




 そして優香さんはもう僕の腕のなかで決心を固めていた。

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