第32話 ひどい嫉妬心

 腕のなかの女が他の男と話をしている。

 しかも優香さんは元婚約者に少なからず想いが残っている。

 電話で話す優香さんの顔を見て声を聞けばそんなものは分かる。


 僕は優香さんの細い首に手を伸ばした。

 渦巻く自分の胸に広がるドロッとした黒々とした汚いもの。

 優香さんの首を絞めて永遠にして僕もいなくなる。そんな恐ろしいことすら一瞬よぎった。

 だってこれからやっと優香さんと進んで行こうとようやく思ったんだ。

 

 僕は……。


 優香さんの首筋に。


「んっ」

 優香さんの細く白い首筋や耳や胸元に優しく口づけていった。

 元婚約者となにかを話す優香さんの意識をらしたくて僕は精一杯の抗議と嫉妬をぶつけた。


 僕の方を向いて。

 優香さん。

 僕の方を見てよ。


 優香さんの手から携帯電話がスルッと落ちて元婚約者の声が部屋に聞こえた。

 僕が布団に落ちた携帯電話を拾い上げて受話器に耳をつける。

「僕の優香さんになんの用ですか?」

 そう言ってしまった。

 僕は静かに怒っていた。

 出した声は自分の声じゃないみたいだった。


 

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