第30話 強く求めた

「僕は琴美の妊娠が分かってから触れようとしなかった。

 大事に思っていたんだ。

 だって僕の赤ちゃんを生んでくれようとしてくれる人を抱いていいのかすら分からなかった。

 いや妊娠する前から…仕事に疲れただのを言い訳にしてちゃんと琴美と向き合わなかったのかも知れない」

 僕は急に優香さんにまくし立てて話してしまった。

 そんな僕の話を優香さんはじっと聞いていてくれた。


「彼女さんは…琴美さんは今どうしているの?」

「僕の親友だった男と僕から逃げたよ。

 駆け落ちしたんだ」

「智史くんごめんね。

 きつい言い方だけど。

 ひどい言い方になっちゃうかもしれないけれど。

 ちゃんと確かめた?」

「えっ? なにを」

「あなたと琴美さんと子供のこと。出産予定日とか聞いた? 智史くんと琴美さんはその……その時にちゃんと抱きあったの?」

 えっ?

 ああ。そうだな。僕と琴美は付き合ったばかりの時とは違ってあんまり抱き合ったりしない方だったかも。

 僕は泣きそうになっていた。

 確信じゃない。


 そうだ。琴美は慶太に僕に足らないものを求めたんだ。

 僕は琴美の安らぎになればと願っていた。

 琴美は違かったんだ。きっと。

「もしねこの先勇気が出たらきちんと琴美さんに聞いたほうが良いと思う」

「本当に僕の子供かってことを?」

 コクンて優香さんが首を立てにうなずいた時に僕のなかの何かが切れて崩れた気がした。

 鍵のような物が壊れた。

 あふれる。決壊したダムのようなイメージが脳内あたまのなかに心になだれ込む。

 衝動が顔を出す。


 目の前の優香さんを強く求める僕が……いた。

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