第22話 恋結びの宿に戻る

 降り始めた雨は止まない。

 四月の雨は気温が下がり肌寒くなった。土産物屋さんで雨宿りをさせてもらっていたが時刻は五時をまわってしまった。

 観光地だがこのあたりは閉店が早いし宿の夕食時間もある。


「帰ろうか? 優香さん」

「うん」

 優香さんは少し柔らかい表情になって僕たちは再び手をつないだ。さっきまでの手の繋ぎ方はではなくて指をからめた。


「お世話になりました」

 僕が土産物屋さんの二人に挨拶をすると優香さんも小さな声でお礼を言った。

 傘をさして僕と優香さんの二人で入ると優香さんは僕にピッタリと体を寄せて来てくれた。

 とても嬉しくなった。

 僕はジャケットの下に優香さんはコートのなかにお揃いのTシャツを着ている。

 なんだかくすぐったい感じがした。


「駅に着いたらタクシーで宿に帰ろう」

 僕は優香さんが遠慮してもそうする気だった。優香さんが風邪をひいたら可哀想だ。

「えっ。でも」

「良いの。僕がそうしたいんだから」

 雨がまだ叩きつけるように降る。

 僕たちに雨粒たちは冷たく打ちつけてきているが傘に落ちる音は嫌いではなかった。

 僕と優香さんは来た道を戻る。

 海には白波が立ち海面は黒く暗くなっていたが僕はちっとも寂しくも心細さもなかった。

 江の島大橋を歩き渡る人はまばらだった。

 江ノ島駅に戻る道すがら僕たちは本当の恋人同士のように身を寄せ合い歩き続けた。


 ポツリポツリと優香さんは婚約者の話をしたのを僕はチクチクチクと心に針を刺されたみたいになりながら聞いていた。


 僕だって琴美のことや生まれてくる子供がいる話をしなくちゃならないのに。

 優香さんはこんな僕の話を聞いたって胸なんか痛まないだろうけど。

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